特選「お替わりはいかが?」
〜箱根湯本紀行(1998/6/13-6/14)〜


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第1日目

 この週末、久しぶりに箱根へ行ってきた。久しぶりといっても高々三年ほど前の話しで、それまでにも何度か行っている。ケーブルカーや早雲山ロープウェイ、遊覧船も数度くらいは乗っているはずだ。それでも箱根というのは、東京都区内からはもっとも近くて手軽な温泉場の一つだから、何度でも来たくなる。我が家からは都営十二号線で新宿まで二十分でゆけ、そこからは小田急ロマンスカーで箱根湯本まで一時間半、特急料金込みでも新宿から二千二十円ですむのがありがたい。

 今回の出発はゆっくりである。新宿発十二時のロマンスカー「スーパーはこね」である。これは小田急の列車で10000系よりさらに新しいもので、座り心地のよいシート、二階建て車両(二階部分はスーパーシートという、いってみればグリーン席のようなものだ)が特徴だ。西武のニューレッドアローもそうだが、特急という快適な速度はあまり感じられない。都心に近いところでは、のろのろと走るのは相変わらずである。このあたりはJRのスーパービュー踊り子などのほうが旅情を誘う。まあその分料金も三倍位はかかるわけで、一概にどちらがよいともいいかねる。

 私達家族が新宿発で旅行にでるとき、駅弁は駅のものは買わない、京王百貨店の地下食品売り場の惣菜コーナー(旬菜小路)にミニパックが多種おいてあるのでそれらを買い求めるのだ。今日は、娘はお握り二個入りのセット、妻はお握りとサンドイッチ、私は関西風お好み焼きとめんたいこスパゲティだ。このお好み焼きは二百九十円と非常にお安いのだが、駅弁としてこんな物は売っていないし、暖めずに食べる弁当代わりにはなかなかいける。まずいだけでたいして旨くもない駅弁に千円近く出すことを考えると数倍良い。ちなみに小田急を利用するなら小田急百貨店のほうが近いが、個人的にはこの京王デパートの惣菜個食コーナーが安くて味も良くお勧めである。 さて、金曜日は比較的天気が良かったが、土曜日は梅雨前線の北上で関東地方も全面的に雨である。雨の旅行といえば昨年春の伊豆高原(ペンションポテリが妙に懐かしい、あそこはまたぜひ行きたいペンションだ)の時もそうだった。今回は最初から梅雨の時期だから覚悟はしていたが、それでもやはり憂鬱な天気だ。降り始めた雨の中、十二時丁度に、スーパーはこね号は新宿駅を後にした。

 十三時半ちょっとまえ、定刻通りロマンスカーが箱根湯本に到着した。この箱根湯本という駅は、シーズンピーク時はかなり多くの人でごった返す割にホームも駅構内も狭く、日曜日の午後などは東京方面へ帰る客でびっしりになる。この日の土曜日の午後も、梅雨のさなかにもかかわらず土日を温泉ですごそうという客で一杯だ。いつもならここで箱根フリーパスを買ってケーブルカーで強羅に向かうが、今回は出発が遅かったため今回は湯本で過ごすことにした。

 出発が十二時と遅くなった理由は単純で十二時以前の特急だと禁煙席が空いていなかったからだ。私は大の嫌煙家だから、公共施設・あらゆる公共の乗り物・レストラン・喫茶店は全面禁煙にすべきだと思っている。さもなければ、完全分煙にして喫煙席は五割り増しくらいの料金にして、その五割り増し分を高齢者福祉資金に使えばよいのだ。喫煙者はそれくらいの迷惑を周囲に振りまいていると心得る義務がある。

 昨年春の伊豆旅行も一日目は雨だったから、雨天でも楽しめるシャボテン公園へいったが、箱根湯本にも似たような施設がある。箱根ベコニア園というところで、湯本の駅から昼間の一時期を除いてほぼ十分間隔で送迎バスがでている。入園料は大人八百円、子供四百円で、いくつかの温室のなかに数多くのベコニアが鮮やかな色の大輪の花を咲かせている。中のテラスではハーブティも楽しむことが出来るが、私はハーブティというのが苦手なので普通の紅茶でがまんである。ここには、ひめしゃら(植物の名前)の湯という、日帰り温泉もあり、温泉を楽しんだ後、ベコニアの花を鑑賞し、ハーブティを頂くなどというしゃれた一時を過ごすことも可能だ。ここは入ってから出るまでは、ほとんど温室内なので、雨の日でも濡れずに楽しむことが出来る。

 ベコニア園でしばし美しい花を楽しんだら、送迎バスで再び箱根湯本の駅に戻る。箱根というのは東京近郊の温泉地でも、車がなくて楽しめる、いや、かえって車だと道路が目茶混むし乗り物に自由に乗れなくて不便な思いをするという珍しいところだ。今夜の宿は「ホテルおくゆもと」である。湯本温泉郷の旅館へは巡回送迎バスが数多く出ているから、ここでも車は必要ない。 宿へついたのが四時過ぎであり、夕食までは時間があるので、ここは定番の温泉タイムだ。このホテルは急傾斜にたっており、玄関ロビーはなんと七階であり私達の部屋が五階、風呂は一階だ。娘を連れて大浴場に行くと、あった、あった露天風呂だ。少し屋内の風呂で体を暖めたあと露天風呂へ出る。雨天だがちょっとした屋根がついているので、露天風呂に使っている間は濡れなくて済む。

 料理は会席風の日本料理で、とりたてて変わった物はないが、十品でて味付けも悪くない。旨いかまずいかのどちらかにわければ、明らかに旨い方に入るだろう。こういう美味しい日本料理には、それを引き立てる冷酒というのがあるはずなので、部屋係の従業員に聞いてみると、何と呆れたことに冷蔵庫の中の酒を飲めという。この言葉、まともな日本料理を出す旅館のそれとは思えない。これでは場末の安宿と同じではないか。正直なところこの対応で、このホテルに持っていた最初の好感が一気に吹き飛んだ。料理は美味しいだけに、この対応は頂けない。別に地酒をいっぱい揃えろなんて言わないが、ある程度の選択肢は設けるべきで、料理にあった酒を用意るくらいの心構えはすべきだ。冷蔵庫の量産品の安酒を飲めというのは、一所懸命作った板長の顔に泥を塗るようなものだ。私が板長ならとっとと辞めてしまうであろう。

 私はほとんど飲まないが、美味しい日本料理には、小量の美味なる酒が欲しくなるもので、小量の酒は料理の味を引き立てる。そのあたりを経営者はまるで理解していないらしく、私としては残念ながら二度と泊まりたくないホテルの部類に分類し、他人にもそのように勧めるであろう。それに比べれば、一泊二食一万円と格安だが、伊東の下田屋という古ぼけた宿のほうが、数段心地よいと言わざるを得ない。一泊二食で二万円台後半と安くないだけに残念であり、なおさら他人にはすすめられない。寝具にしても、寝具にうるさい私にはとうてい我慢できるものではなかったことを付け加えておこう(旅館の名誉のために付け加えれば決してボロ寝具ではない、私が並みのうるささではないだけ)。朝食のほうは、昨夜の不機嫌もなおしてくれるような立派なもので、これは朝から大満足だ。そうなるとなおさら夕食の飲み物が残念でならない。


第2日目

 昨夜、ホテルのロビーで「神奈川県立 生命の星・地球博物館」という施設のパンフレットを見つけた。三年前に出来たばかりで、場所は箱根湯本駅の一つ前の「入生田(いりうだ)駅}から徒歩三分だ。休日の国道一号線は混雑するからここも電車向き施設である。パンフレットを見るとちゃちな博物館だと思えるが、実際に行ってみるとなかなかどうして立派なものだ。宇宙の起源から始まって、地球の歴史、生命の歴史について、大規模な展示が沢山ある。

 上野の国立科学博物館の展示の中で、宇宙・生物・地球に関する展示物をえりすぐって、より楽しく近代的に展示したようなものだと思えばよい。国立科学博物館は展示物があまりにも多すぎて、全貌をつかみきれないが、ここは手ごろな規模である。入場料も高校生以下は無料、大人は五百十円とリーズナブルである。入り口近くのミュージアムシアターでは、ハイビジョンによる大型スクリーンでの自然の映像を中心にした十五分ほどの映画を見ることができる。一階の最初は宇宙から始まる地球の歴史だ。これらも単純に地球創造物語ではなく、その多くを手で触れることが出来る種々の実物岩石資料や巨大な岩石資料があり圧倒される。

 次が生命展示で、恐竜時代の巨大動物やシダ類などの原始植物や化石などが立体的展示されている。空を飛ぶ恐竜などはその模型が高い天井から吊るされているし、鳥類剥製も飛行体形で天井から吊るされており、ふだんは見ることのない飛んでいる姿の鳥のお腹を見ることができたりするのはご愛敬だ。

 他にも動物の剥製が多くあるが、それらは特別ガラスケースの中に入っているわけではないので、手が届く物は手で触れることができる。展示物には手を触れないで下さいという博物館が多い中で、利用者の良識にゆだねてあえて手を触れることを許し、ガラスケースで囲うのは本当に触れられると壊れるもの非常に貴重な資料などに限定しているその姿勢は評価できる。実際問題、剥製とはいえ、サイやヒグマ、ツキノワグマに触れたのは初めてである。ヒグマの毛は堅いが、ツキノワグマの毛の方が柔らかであるなんてのも、触って初めてわかることで、他の博物館では経験できないものだ。

 最後にあるのが巨大ブック展示室というもので、神奈川県由来の自然を巨大な本の形をとって展示した部屋がある。展示ケースが巨大な本の形に作られているといったほうが分かりやすいかも知れない。ここは現代の神奈川県にからむ自然の展示なので、これはこれで見ていても身近でたのしい。

 この「神奈川県立 生命の星・地球博物館」だが、ゆっくり見れば十分に半日は楽しめるものだ。お弁当を持って行けば館内ラウンジや屋外ラウンジで食べることも可能だ。箱根登山鉄道の箱根湯本駅一つ手前、入生田(いりうだ)駅で降りれば、国道一号線を挟んだ向こう側に見えている。箱根湯本から運賃百三十円とお安く、観光客の多くが見向きもしない穴場であろう。ここは、箱根湯本お勧めスポットである。

 こうして、帰りの車内で「週末の箱根湯本」を書いている間に、上りスーパーはこね」は経堂駅を軽やかに通過した。宿で贅沢を言わなければ比較的安くで楽しめる温泉地、それはやはり箱根だろう。電車だけで楽しめ、大気汚染を誘発する自家用車を使わなくても、いや、つかわないほうが楽しめる数少ない温泉観光地だ。


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