「お替わりはいかが? 〜1432〜」

1999.06.05 (Sat) ==========================

□ 盗聴法案成立か? 〜3〜

 社説は「法案が一般市民を無原則に盗聴するものでないことは明らかだ」と
当たり前のことを書いているが、そんなことは当然である。法案上にそんな馬
鹿なことが堂々とゆるされるわけはない。

 しかし、現実には抜け穴が沢山ある。例えば要件に該当する犯罪捜査のため
に傍受していたら、その中で別の犯罪があることが分かったとしたら、その犯
罪についても傍受できる。つまり「令状に記載された以外の犯罪を内容とする
通信は、死刑、無期または1年以上の懲役・禁固に当たる罪に限り傍受でき
る」というものだ。死刑・無期はともかくとしても一年以上の懲役・禁固とい
えば、これは裾野がぐんと広がることに注意が必要だ。例えば知らぬうちに知
人が正規の令状の対象となり傍受されていたとして、その知人との電子メール
や電話の中で、例えば売春関連(特に少女対象など)の冗談をいったとしたら、
それも立派に対象となり、冗談とはいえ警察にしょっぴかれるかもしれない。
へたすれば冗談も言えなくなる(そういう悪質な冗談が悪いのは明白だが、だ
からとって冗談一つでしょっ引かれる(あえて逮捕とは言わない)社会が本当
に良いか?)

 もっと議論をすべきだという主張には大いに賛成するが、社説の中の「事実
に基づいた正確な議論が重要だ」という部分には笑わせられる。なぜなら事実
に基づこうにも、これから成立するかもしれない法案について事実とは何をさ
すのか? 法律の場合は実際に成立し運用された結果が事実となるが、まだ成
立していない法律に事実はなく、あるのは「案」だけだ。事実に基づいた議論
をしていないのは、国会だけはなくこの社説そのものも事実を無視した机上の
空論をぶっているだけだ。

 米国連邦捜査局(FBI)育ての親であるジョン・エドガー・フーバーが死
ぬまでFBI長官の座を降りることが無かったのは何故か、米国最大の権力者
である大統領をもってしもフーバーをFBI長官の座から下ろすことができな
かったのは何故か。これはフーバーが手段を尽くして(もちろん傍受も含まれ
る)政財界の大物の弱点を掴んでいたからといわれている。この時代の米国と
今の傍受法案を直接比較すべきではないが、フーバーの悪夢がよみがえる可能
性はある。さらに皮肉なことに、今は勢いづいて法案を通そうとしている自自
公の政治家も、自分が通した法案がきっかけになり、法廷に立つことになるか
もしれない。

 とにかく、もっと慎重に時間をかけて議論するのが必要なのは当然だが、さ
らに強力な歯止めとして、被傍受者には対抗措置となる訴訟手段を強力に与え、
違法な対しては、被訴訟者が違法性を証明するのではなく、捜査当局が違法性
が無かったことを全面的に公開法廷にて証明し、訴訟対象として捜査当局だけ
ではなく捜査官個人とその上司をも対象に億円単位の賠償金を求める訴訟が大
いに認められてもよい。そのためには特設法廷を設けてもよい。それくらいの
歯止めがないと、現実の権力暴走は防げないのではないか。

(完)