実用引越講座 (No.76〜80 1995/09/18-09/22掲載)



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前書き

 私がこの世に生を受けてから、今の歳(何歳なのかはご想像にお任せする)になるまでに引越をした回数は十数回にのぼる。親元を離れてからは六回、結婚してからは二回である。就職したとき、結婚したときは仕方がないと思うが、ここまでくるとほとんど引越マニアであると思われてもやむをえない。だが、実体は人畜無害な普通の人間である。この数少ない引越経験がお役に立てばと思い、趣向を変えた次第である。

 ここでは、独身ではなく所帯持ちの引越を想定しているが、かなりの部分は独身の方にも適用できるはずである。


物件選び

 転勤で社宅に入る、あるいは実家に入る等の事情でない限り、賃貸にせよ持ち家にせよ新居は自分で用意しなければならない。物件選びについては書き始めるとそれだけで、一冊の本ができあがる位であるから、ここでは重要な点だけを説明しておく。

物件選びに際しては妥協できる点と絶対に受け入れられない点をはっきりと分けておく。

  1. 現地の下見に際しては、かならず平日と休日の両方を見ること。休日だけだと近隣に大きな音や振動を出す町工場があってもわからないケースが多い。理想的には平日ラッシュ時・平日昼間・平日夜間・休日昼間・休日夜間、さらにそれぞれの天気の良い日と雨の日を見るべきだ。賃貸住宅にそこまですることはないとは思うが、一生ものの一戸建て住宅などでは怠るべきではない。賃貸でも最低限平日と休日の両方をみなければ後悔することが多い。
  2. 以前も書いたことがあるが、マンションでは自転車置き場、ゴミ集積場、集合ポストなどをみると管理状態や住人のマナーは一目瞭然である。
  3. 同じく賃貸物件では家主は近くに住んでいる方がよく、ケチな家主の物件は避けるべきだ。

 分譲物件の場合はそう簡単に住み替えることはできないから、さらに次のような点も調べるべきである。

  1. 市役所や区役所に足を運び、その付近の都市計画図をみること。これにより将来自分の土地の半分が道路や公園になるとか、そばに大きな道路が走る計画があるなどが一目でわかる。とうぜんそういった場所は避けねばならない。
  2. 地元の図書館へ行き、過去の土地利用図などを調べる。たとえば沼や田の場合はなかなか湿気がぬけなくて、種々のトラブルの原因になる。また寺の跡だったりすると具体的な害は無いだろうが、あまり気持ちのよいものではない。
  3. 何年か後の鉄道の新線開通や新駅開業などをあてにして住まいを選ぶと、景気動向や鉄道会社の経営状況により計画延期や中止などがありうるので、あくまで現在利用可能な交通機関だけで考えること。捕らぬ狸の皮算用は禁物だ。

 賃貸物件は収納が少ないことが多いので、できるだけ収納の多いものを選ぶほうがよい。収納がすくないあるいは小さいと、雑物が部屋を占拠してしまう。

 あげてゆくときりがないので、このあたりにしたほうが良さそうだが、特に分譲住宅の場合はしつこいくらい調べても、調べすぎることはない。つい内装や設備、価格や金策で頭がいっぱいになりがちだが、後悔してからでは遅い。


引越計画立案

 さて、引越先が決まったところで、次は具体的な引越の準備に入るわけだ。まず行うことはやるべき事のリストアップである。やるべき事を洗い出し引越の日の前後に当てはめて行くのだ。例えば当日までにやることは、主に次のようなことだ。

  1. 引越先の下見と清掃を行う。
    室内、収納や開口部の幅・奥行き・高さを計る。
    付近の道路事情を調べてトラックの進入路や荷下ろし場所を把握する。
    事前に購入すべきものをチェックする。(カーテンなど)
  2. 新居での家具配置を決定する。
    計ってきた寸法を元にして、家族で相談して家具配置を決める。
    部屋の見取り図と家具配置図を作成する。
  3. 引越請負業者から見積を取る。(詳細後述)
  4. 電気・ガス・水道・電話に旧居の精算を依頼する。
  5. 新居でのガスの開栓を依頼する。(できるだけ引越前に開栓しておく)
  6. 郵便局へ転居届を出す。
  7. 区役所や市役所へ転出届を出す。子供の転校手続きもお忘れなく。

さらに、当日以降にやることをあげてみよう。

  1. 区役所や市役所へ転入手続きをする。同時に住民票の写しも何通かもらっておく。
  2. 運転免許証の記載事項変更届けをする。住民票の写しが必要。他府県からの転入では写真が必要である。
  3. 勤務先・クレジットカード会社・銀行・証券会社・生命保険会社や損害保険会社へ移動届を出す。これがかなりの数に登るので、口座番号やカード番号、証券番号とともに連絡先を必ずリストアップしておく。

と、まぁ、かなりいろいろあるわけだが、抜け漏れを防ぐ方法はただ一つしかない。順序はどうでもよいから、とりあえず思いつくことを全てリストにし、それをカレンダーに埋め込んでゆくのだ。そして何度か検討すると良い。


業者選択

 引越業者も街の小さな運送屋から全国レベルの大手までいろいろある。費用に関して言えば大手ほど高く、小さな業者の方が安い。しかし事故があったときの対応は一般的にはその逆である。独身で荷物がすくなければ小さな業者で簡単に安く済ませた方がよい。家族持ちで高級な家具が多ければ、それなりの規模で大きな業者の方がよい。

 ただし、大手業者には大きな落とし穴があることを忘れてはならない。具体的な社名はあげられないが、テレビで盛んにCMをしている某大手引越専門業者や日本有数の運送会社の場合は、家庭の引越には下請け業者がくることが多い。トラックにはその大手業者の塗装が施してあるが、よくみると○○運送とか書いてあることが多い。日本でもトップクラスの規模の後者の場合は、企業の引越は直営で行うが、家庭の小さな引越は同じく下請けの場合が多い。

 勘違いしてはこまるが、下請けが悪いといっているのではない。下請けの場合は親会社の方針やサービス教育が行き届かないので、CMやうたい文句からすると期待はずれのことが多いのである。同じ大手でも殆ど直営の会社もある。下請けを使う会社では、あたりはずれが大きいが、直営の場合は極端にすばらしいことも大外れということもない、無難な選択ができる。

 引越業者に見積を依頼するにあたっては、複数の業者に見積を依頼するのが常識である。その結果一番安い業者に依頼したくなるのが人情であるが、ちょっと待ってほしい。引越に事故はつきものである。家具の破損や傷だけならともかく、旧居や新居に予想外の傷をつけられて家主から高額な補修費を要求されないとも限らない。どの業者に依頼する場合でも事故の際の保証だけは確認しないといけない。それもできれば書面で確認することだ。価格だけで決めると、結果的にはよけいに高くつき、後悔することになりかねないかねない。


荷造り等準備

 引越に荷造りはつきものである。当たり前の話だ。先に引越請負業者の話をしたが、最近ではおまかせパックとかおまかせ便と呼ばれるサービスがある。こういった選択肢があるのは多くの場合大手業者である。

 一般の引越ではあらかじめ段ボール箱にまとめられた荷物と大物家具の搬出・運搬・搬入までを行う。それに対して「おまかせ」では業者により差があるが、もっとも行き届いたものでは、新居の清掃・一部の危険物を除き全ての大物家具や小物の梱包・搬出・旧居の清掃・運搬・新居への搬入・荷解き・配置・不要品の引き取りまで殆どの事をやってくれる。

 筆者も一度Y運輸のおまかせパックを頼んだことがあるが、非常に楽であった。とにかくよってたかって人海戦術で片づけてしまう。玄関やげた箱の靴から履いていく物を聞きだし目印をつけて梱包から除く目印にする。台所は女性の係員が寄ってたかって荷造りをする。最後に掃除をしようと出しておいたバケツや掃除機までいつのまにか梱包されてしまう始末だ。我々自身も家の中にいても作業の邪魔になるばかりだし、かといって外でぼけっとしているわけにもゆかない、どうにも中途半端な存在であった。

 このようにとにかく楽であるが、さわられては嫌な物……たとえば衣類や下着など……は自分で梱包したほうがよい。また、自分で荷造りするとわかるが、荷造りとは結構手が汚れる物だ。自分でやるときは適当に手を洗いながらやればよいが、効率を第一にする彼らがそこまで丁寧なことをやるわけがなく、新居で配置の終わった書棚のなかの本をさわると、梱包前より汚れていることが少なくないのである。気にしない人には、なんということはないのであろうが、普通はそれなりに気になる物だ。良く言われることだが、おまかせパックはゴミやほこりまで梱包して持って行くのである。実際、捨てようとおもって部屋の角に積んでおいた雑誌も梱包し新居へと運んでくれた。おまかせパックは楽に違いないが、全てが終わったあとで、再清掃をしなくてはならないという側面があることを、知っておく必要がある。たかがそんなことと思うなかれ、けっこう汚れている物だ。まぁそれでも自分で全てをやるよりは、はるかに楽であることにはかわりない。

 さて、自分で荷造りする場合はというと、やはりこつはいくつかある。食器類はよく新聞紙などをつかって梱包する人が多いが、これはあとで洗う手間がかかるだけである。段ボール箱の底と回りにエアキャップを二、三重にあてて、清潔で大きな袋(新品の大きなゴミ袋がよい)を中に広げて、食器はペーパータオルでくるむのである。開梱の際にはそのペーパータオルは捨てずに、袋にとっておき徐々に使えばよい。

 冷蔵庫は前日には総てからにて、製氷皿や冷凍室、蒸発皿ににたまった水をきれいにしておく必要がある。当然いきなり空にすることはできないから、一週間以上前から冷蔵庫の中身の在庫処分を始める必要がある。どうしてもあたたまると困りかつ処分できないものは、たっぷりの保冷材をアイスボックスにつめて、そこに保存すれば一日程度なら十分である。保冷材が暖まってきたらコンビニにうっているロックアイスをそのまま袋ごとビニル袋にいれてから保冷材代わりにしても良い。もちろんドライアイスでも良い。

 ステレオなど後ろの配線が複雑なものは、あとで自分でもわからなくなることが多いので、あらかじめ配線図を書いておくと良い。さもなければケーブルの両端に、どこにつなげばよいかのタグをつけておくのだ。特に最近複数台のビデオにレーザーディスク、CD、MD、カセットなどがある場合は後ろはスパゲティ状態になるので、事前の調査は不可欠となる。

 梱包などをはじめるまえに、食器棚や食品棚、本棚など決まったものを決まった風にしまう家具の中は、あらかじめ写真を撮っておくと良い。たかが本棚とあなどってはいけない。全部ばらばらに出してしまい、その数時間後あるいは翌日などに元通りにするとなると、以外と元の状況を覚えていない物だ。あらかじめ各棚の状況が写真でわかれば、そのあとの復活作業が格段に楽になる。なにより、奥様でなくても食器棚の復旧ができるのだ。書棚もしかりである。

 タンスの引き出しの中身なども、食器同様に大きな袋を箱に敷き、引き出し一段につき段ボールを一箱、あるいは最低でも袋を一つ割り当てる。入れ方もできるだけ引き出しの中身の原型をとどめる状態でいれることだ。こうすることで戻すのも非常に楽になる。

 総ての搬出が終わった後で、掃除をすることを忘れてはいけない。たつ鳥後を濁さずなのである。そして搬出による内装や設備、建物への傷がないことを必ず確認することだ。万一搬出傷を発見したら、直ちに業者の責任者(まちがってもバイトなどと話てはいけない)と話をつけることだ。このとき家主がいれば、家主もまぜて話をつけることである。かならず業者に弁償させることを書面による確約をとること。口頭では言った言わないで逃げる悪質な業者も存在する。

 最後に、家主や管理人あるいは近隣の世話になった方々には忘れずに挨拶をしなければいけない。これが旧居での最後の仕事なのである。出発前には水道元栓、ガス元栓、電気のブレーカーを落とすのを忘れずに。


旧居と新居の点検

 賃貸住宅では退去したあと、通常は内装や設備の補修・清掃が行われる。この時当然施工業者や管理会社が必要な費用の見積作業を行うのだが、その場に立ち会うかどうかを聞かれることがある。これは可能な限り立ち会った方がよい。また聞かれない場合は、自分からその日時を確認して立ち会うべきだ。ひどい業者だと補修費用をぼられてしまうことが無きにしもあらずである。また費用について家主と旧借り主(つまり貴方自身)が折半したりするものも少なくはないので、それについても確認が必要である。故意に壊したりしないかぎり、畳や襖の日焼けなどは家主もある程度費用を負担すべきものだからだ。

 新居に入る前の大切な事も書き忘れた。賃貸でも分譲でも引き渡しを受けたときに室内外を隅々まで点検しておくことを、忘れてはいけない。分譲の場合は点検を忘れることはなさそうだが、賃貸の場合は忘れることが多い。ここではマンションを例に上げるが、チェックポイントはいくつかある。

  1. 室外のチェック
    集合郵便受け、玄関ドアの郵便受け、窓やドアガラスの欠け・ひび
  2. 玄関
    ドアの開閉、ドアクローザーの具合、防犯チェーンの掛かり具合、鍵の掛かり方、下駄箱など玄関収納の内部や扉の開閉、玄関床の損傷(コンクリートの割れ、クッションフロアの汚れや破れ、タイルの割れ・欠け
  3. 水回りのチェック
    水漏れの有無、水の出具合、給湯器がある場合は最低温度と最高温度での湯温、給湯器の燃焼具合(異臭の有無)、排水の流れ具合
  4. トイレ
    トイレの排水、便器の汚れ・割れ・ひび、壁・床の汚れやクロスの破損
  5. 洗面所
    排水の具合、壁・床の汚れやクロスの破損、防水パンの破損、洗面台の鏡や小物入れ・扉の具合や破損
  6. 浴室
    ドアの防水パッキンの破損、シャワーや蛇口の出具合と切り替えレバーの動き、浴槽の傷・汚れ・ひび・破損、壁や床のタイル・プラスチックの汚れや破損
  7. キッチン
    作り付け収納部の汚れや破損、扉類のレバーの破損、シンクなどのステンレスの破損や腐食、周囲のタイルや壁のクロスの破損・汚れ、流し台付近の床の汚れ・傷・破損
  8. 和室
    襖の開閉と破損の有無、押し入れ内部の汚れ・かび・破損、畳表やふちの破損や汚れ、壁や天井の汚れ・破損
  9. 洋室
    フローリング床の大きな傷、クッションフロアの汚れ・破損、カーペットの汚れ・破損、壁のクロスの汚れと破損、収納部の汚れ・かび・破損
  10. バルコニー
    物干し竿掛け金具の具合、手すりの破損・さび、コンクリート部の大きなひび、エアコン吊り下げ金具の具合
  11. その他
    開閉部の開閉具合、壁やガラス等の汚れ・欠け・割れ

 かなり、細かいことを書いているようだが、特に賃貸住宅の場合家主は室内にあまり目が届かない(居住者がいるのだから当然だ)ので、これらの構造物・設備の不具合は、居住者が知らせないとわからないことが多い。住宅とその設備は家主の貴重な財産であり、家主もその財産価値を維持するように気を配るはずである。こまかいことをいうとうるさがられるかと思うかもしれないが、本当に維持管理に気を配る家主なら決してうるさがらないし、不都合はどんどん申し出た方が家主も安心するものだ。くりかえすが、居住者しかわからない不都合は、家主に報告する「義務がある」のだ。そして普段から家主と良好な関係を維持することが、家主の信頼を得て快適な賃貸住宅での生活を約束してくれることになる。

 また、これらの不都合は必ず日付入り書面にして、その場で家主とともに確認しなければならない。口頭だと言った言わないの水掛け論になってしまう。これがないと、入居時から壊れていたにも関わらず、いざ退去する時になってあなたに多額の補修費用がかかってくることがあるからだ。逆にこれらをうるさく確認したのだから、あなたは入居者の模範となって建物や設備を大切に使わなければならないのは当然のことだ。

 仮にこれらをうるさく思わないような家主なら、長居はしないほうがよい。自分の財産の管理状態を気にしない、あるいは維持費をけちるような奴の所有物はいずれスラムとなること請け合いである。そうなるまえに、そして多額の修繕費をむしりとられないうちにさっさと転居してしまうべし。当然中元や歳暮などは一切無用である。

 分譲住宅の場合は、自分自身の財産なのだ。自分が金を出すのだから、不具合は完璧に直させねばならない。あとからではとりあってくれない業者も多いのである。とにかく最初が肝心である。業者を甘やかせてはならない。何十年というローンを背負ったのはあなた自信なのだから、貴方にはそれを要求する権利がある。あなたが納得するまでは引き渡し書類に捺印をしてはならないし、業者に住宅代金の振込もしてはならない。


引越当日

 前日の夜までに、翌朝使うものを除いて梱包してしまおう。最後まで使っていた物は、新居でも最初に必要になる物であると考えてさしつかえない。これらは分かりやすく段ボール箱に表示をしておくべきだ。予め梱包した段ボール箱に、新居で運び入れる場所を忘れずに記載しておくこと。こうすればいちいち指示しなくてもすむ。当然割れ物や積み重ね禁止などのラベルは必要に応じて、段ボール箱の横と上に張り付ける。上にだけ内容物やこわれもの表示を張り付ける人が多いが、これだと段ボール箱を重ねたときに、見えなくなってしまう。かならず、上と二カ所以上の側面に書いておくこと。

 全てをトラックに積んだら、もう一度室内や収納部を見回して忘れ物がないように点検しよう。自分達でとりつけた照明(ペンダントライト)なども原則として外してゆかねばならない。比較的大きな物ではあるが視線の外にあることが多いので忘れることがある。

 点検が終わったらトラックを見送って、自分達も新居に向かおう。もしトラックが先に着く可能性があれば、事情がわかって搬入指揮をとれる人を予め新居に行かせておく必要がある。そうでないとトラックや作業員は無駄な時間を過ごすことになり、結果的にはああとかたづけが遅れてしまう。

 搬入は大物家具から行う。的確に設置場所を指示し、どんどん運ばせる。段ボール箱などは内容に応じて運び込むよう指示する。このとき先のように段ボールに場所を書いておけばそこに運んでくれる。ただし、寝室となる部屋にあまりいっぱい運び込むと、寝る場所が確保できなくなるので、とりあえず使わなくてもすむ部屋に放り込んでおけばよい。とはいっても、書籍類など運ぶのに重い物ではなく、自分達でも簡単に運べるようなものにしておくことは言うまでもない。

 設置された大物家具は表面をその材質に応じて拭いて行く。高級なタンスなどは変なものでふくとしみになったり、材質を痛めたりするので注意すること。作業員の手は意外と汚れているので、そのまま放置すると、かびの原因になることもある。

 人手があれば大物運搬は家具と建物の両方を傷から守るため、ちゃんと監視していたほうがよい。悪質な業者は知らぬ存ぜぬを決め込むことがあるので、それを言わせないためにも、万一ぶつけられたりしたらその場で直ちに文句をいい、責任者に賠償させる確約をとる。そして、引越の最後に必ず書面で確認を取ることだ。この際、修理させますという言葉に安心してはいけない。高級な家具になるとそこら辺の家具屋では手に終えない物も多く、適切な修理をしてもらえないことが多いので、そういったものは自分で信頼できる業者から見積を取り、費用を業者負担にする確約を書面でとること。奥様の御両親が額に汗して働いた金で買ってくれた高級な嫁入り道具だったなら、毅然とした態度で望むべきだ。たかだか2000円のカラーボックスならば互いに笑って済ませられるが、何十万という家具ではそうは行かない。

 下請けとアルバイト作業員が多い業者ではこういったところにも差がでてくる。アルバイトは慣れないから落とさないように持つのが精いっぱいのことが多い。その点大手運送会社直営のベテラン作業員は適切に訓練を受け経験を積んでいるので、そもそもぶつけることが少ないし、危なそうな場所も心得ている。

 さて、荷物搬入が進んできたら、近所のコンビニにジュースや菓子を買いに走ろう。もちろん作業員に対する心遣いである。チップは大手業者だと受け取らないことが多く、アルバイトの多い中小業者ほど受け取る傾向がある。このあたりも相手をみて判断すること。余談になるが、引越で友人を駆り出す人が多いが、独身はともかく高級家具の多い所帯持ちは絶対に止めた方がよい。壊されても文句を言いにくいし、怪我でもされたら困るのだ。何かあったら業者より遥かに高くつくのだ。

 全ての搬入がおわったら過不足やトラックに荷物が残っていないことを確認して業者の仕事は終わりである。おまかせパックなどでは、このあと作業員による開梱作業が始まる。自分達で荷造りして開けて欲しくないものはそのように言うこと。またステレオやパソコンなどの複雑な配線も自分達でやること。なによりもやるべき事は、その日の夜に寝る場所を確保することだ。とにかく寝室をまっさきに片づけて、布団やベッドを使えるようにする。同様の理由で風呂も使えるようにしておくこと。当然最低限の着替えや子供の学用品も重要である。夕食はコンビニ弁当か外食で済ませた方がよい。疲れている奥様に飯を作れなどと絶対に言ってはいけない。

 残りの段ボール箱はゆっくりとかたづけてゆけばよい。あせることはないのである。それより色々な手続きを先に済ませた方が良い。区役所へはできるだけ早いうちに転入届(前居住地の転出証明書が必要)を出しておこう。この際住民票の写しを数通もらっておく。続いて免許証の記載事項の変更も済ませよう。

 さぁ、落ち着いたら自転車にでも乗って近所の探検に行こう。スーパー、食品店、本屋、コンビニ、駅までの道順等々調べることは山ほどある。子供をつれて、あるいは奥様とともに歩いてみるのも悪くない。途中で小さなコーヒーショップをみつけたら入ってみよう。カウンターに陣取ってマスターの話を聞いてみるのも、また楽しくためになる。


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