「お替わりはいかが? 〜1303〜」

1999.01.27 (Wed) ==========================

□ 肌が合う土地 〜2〜

 また、そこに居る人にも悪人は少ない(もちろん悪い奴は山ほどいるだろう
が自分が普段接する範囲において)し、個人個人は良い人が多く、私が尊敬す
る人も多くいる。しかし、しかしである、どうもしっくりこないのである。土
地とそこに住まう人と肌が合わないのだ。言い換えればストレス度合いが高い
のである。

 それまではそんなことは考えたことも無かったのだが、大好きなハワイ諸島
を重ねて訪れる度に、それまでは考えなかった思いがわきだした。例えば最近
年初に訪れて何度と無くネタにしているハワイ島(ビッグアイランド)の西海
岸沿いの小さな町「カイルア-コナ」というところだ。あるいはマウイ島のラ
ハイナ」でも良い。とにかくどちらもちょっと大きめの田舎町である。ここへ
いってみて、まず空気というか土地というかそういったものに、はなっから違
和感を全く感じなかった。これはわりと閉鎖的な性格の私には大変珍しいこと
で、札幌でも四国でもどこでもよいのだが、多くの場合はここはよその土地で
あり自分とはどこかそぐわないという気持ちがすることが多いけれど、この太
平洋の真ん中の島の小さな街ではまったくそれを感じなかった。

 デジャビュー(deja vu [フランス語])という言葉がある。日本語に直せば既
視感というやつで、始めて見たり経験したりすることなのに、何故か過去に見
たり経験したような錯覚を覚えることだ。程度の差はあれどもこうした経験が
ある人は多いと思う――この現象の正確な原因はわかっていないが、脳の記憶
領域での混乱が一時的に発生してこの症状を引き起こすといわれており、あま
りにもひどい場合は、精神病としての治療が必要になる。私はこのデジャビュ
ーではないが、それに似たような気持ちになった。

 つまり始めて来た海外の土地であり、それに関する限りデジャビューは皆無
であった。しかしその土地の雰囲気、気候、人々などどれをとっても自分には
ひどく肌触りが良く感じたのである。これまで旅先で「美しい」とか「素晴ら
しい」とか感じることは多かったが、単なるリラックスをはるかに越えた気持
ちになったのははじめてのような気がする。もちろん言葉は日本語よりはるか
に不自由である(とはいっても旅行ならさして不自由はない程度にはなんとか
なっている)のは確かだし、食も文化も異なるのだが、それを超越した肌合い
の良さを頭の中心で感じた。これは非常に衝撃的な経験である。初対面の異性
に対して第六感がピンときてこの人と結婚するかもしれないと思い実際にそう
なった、なんて話をきくことがあるが、まさにそれに近い気持ちであった。そ
この人々、空気、土地、そこに生きるための大前提の土台と私の心の波長が共
鳴したのである。もはやこれは理屈ではない。後から考えて理屈をつけること
はできるのだが、この時は理屈ではなかった。

 生まれて始めて、肌の合う土地、ここでずっと暮らしたいと心底思う土地を
見つけた。

(完)