「お替わりはいかが? 〜1337〜」 1999.03.02 (Tue) ========================== □ プライバシーとマスコミ 臓器移植法の施行以来始めての脳死患者からの臓器移植が行われた。始めて ということもあって、新聞・テレビなど主なマスメディアは報道合戦を繰り返 し、ドナーやドナーの家族のプライバシー、レシピエントや家族のプライバシ ーは物の見事にうち砕かれた。プライバシーを初めとする形のない物には価値 を認めたがらないという近代日本商業主義の悪い癖がここにも及んでいるよう で、各マスメディアは「報道」という錦の御旗の元に、まるでハイジャック事 件の中継でもするかのような調子の報道を繰り返した。 何分、我が国で合法的に行われた最初の脳死患者からの臓器移植であり、い ろいろなところでいろいろな不整合や管理不行き届きによるアクシデントがお こるのはやむを得ないだろう。だが、しかし、今回のように患者や家族のプラ イバシーを土足で踏みにじるような報道合戦には、正直なところ反吐がでる思 いがした。いくら仕事とはいえドナーが入院している病院のそばから、生中継 で放送までする必要があるのか。これはもはや情報公開とか知るための報道活 動の枠を大きく逸脱している。 厚生省は27日、日本臓器移植ネットワークに対して独自の会見を自粛するよ うに申し入れたようだ。一方では報道機関36社が加盟している厚生記者会とや らは同日、「家族のプライバシーは尊重するが、移植医療は完全な公開で行わ れることが原則であり、脳死判定と臓器摘出の経緯の公表を要望する」と厚生 省に申し入れたと毎日新聞DailyMail(2/27)では報じている。 最近、何か事ある毎に怒りの表明やら見解やら答弁やらをされている野中広 務官房長官は今月1日に、家族のプライバシーの完全な保護と情報公開との接 点をどうしてゆくかが今後の課題であるとの見解を表明している。さらに今回 誰に何が移植されたかということまで取材されていたが、そのような取材をす ることそのものが不見識であると付け加えている。個人的には全くその通りで あり、プライバシー保護と情報公開との接点について、移植先進諸国での例に も学び、大いに議論しその接点を見いだして行くべきだと思う。完全非公開と か完全公開と行った極論ではなく、それらの接点を見いだせるような幅広い議 論が生まれて欲しいと願っている。 しかし、今回の大規模なマスコミの暴走にも一つだけよいことがあった。そ れは臓器移植はドナーカードについての認識がたかまり、家族でも話し合う人 たちが出てきたということだ。私自身は自分の意志を表明したドナーカードを 所持しているからわかるが、誤解のないように付け加えれば、このカードは 「提供の意志」を示すだけではなく「提供しない意志」も示すことができる。 だから「提供する」にせよ「提供しない」にせよその旨を示したドナーカード を所持するのが望ましいのではないか。 ともあれ、ドナーやレシピエントそして家族と関係者の方の英断と努力に頭 が下がるおもいであると同時に、なくなられたドナーの方のご冥福を心よりお 祈り申し上げる。