「あいちゃんの散歩道」

第4回 この冬の風邪


 どうもこの冬は妙な風邪が流行っている。いつ乗っても通勤電車の中には咳き込んでいる人が、必ず一人や二人は乗っている。例年の冬なら確かにたまに咳をしている人はいたけど、激しく咳き込む人はそんなには多くなかったように思う。咳払い程度の人は別段珍しくは無いが、咳払いを超えた咳を連発する人がこの冬は少なからずいるようだ。

 勤務先では、昨年十月頃から咳をする人が出始めて、一時は始終咳き込んでいて見るのも気の毒な人もいた。それから気温が下がるにつれて、オフィス内でも咳をする人が増えてきた。みな、それぞれ医師の診察を受けていたようだが、どうも今年の東京近辺で流行っている風邪は例年にない特徴があるようで、ある薬店でも今年はいつになく咳止めが売れている、咳がなかなかとまらないという人が多いということだった。

 特徴の一つは、熱はでないか、出ても微熱程度のことが多いこと(一般に普通感冒と呼ばれるものは大体熱はでないか、出ても低い熱だ)、そして熱が低いわりにだるさが強いこと。たとえば37.5度なのに、体感的には38.5度くらいに感じることだ。鼻水やくしゃみは先行して出ることもあるが、でないこともあるようだ。

 もう一つは咳だ。とにかく咳がとまらない。熱は下がっても咳だけが残ってしまう。上気道の細菌やウィルスによる感染の後、気道が敏感になり、数日から数週間にわかって咳が出やすくなることが多いというが、どうもその程度ではない。勤務先でも何人かの話しを総合すると、「とにかく夜寝る前や寝ている間に咳き込んで苦しくなる、喉の違和感が強くて咳き込んで時に吐きそうになる」、「暖かくて乾燥した場所、特に通勤電車の中などが非常につらくて、飴でもなめていないと咳き込んで仕方ない」というのである。

 最初は、まさかそんなにきつい咳が出るなんて、とか、そりゃ風邪じゃなくて別の病気じゃないのか思っていた。たとえばオフィス空調の整備不良でレジオネラ菌に汚染された感染じゃないのか、とかも考えなくはないが、そのわりには咳以外の症状の重い人は出ていない。レジオネラ菌による肺炎は軽いものから死にいたる重いものまで人さまざまだというが、一般にはそんなに軽くないようで症状的にも肺炎同様咳だけというのも少ないようだ。もちろんこれは当人の抵抗力次第で、健康で体力のある若者の場合は発症しないとか軽くて済むこともあるのだろう。どちらにせよ、とにかく咳き込むのが強いのがこの風邪の特徴のようだ。

 そんなことを考えていたら、自分も都合三回風邪症状で悩まされてしまった。一度目はクリスマスの時で、この時は37度台の発熱で二日ほどでよくなったのだが、だるさとしては38度台のそれだった。二度目は年末から年始にかけてであって、Y2K対応で大晦日の朝に出勤したのはよいが、手違いで最初の3時間くらい暖房なしでとんでもなく寒かったのが災いして、自覚症状はなかったが完治していなかった風邪がぶり返して、38度台の熱と咳になやまされ、元旦に自治体が運営する休日診療所の世話になった。この時、熱はすぐに下がったが、咳は出始めから考えると一週間か十日くらいは確実に続いていた。聞いていた話と同じく、とにかく夜の咳が辛かった

 それが治ってようやく落ち着いたと思ったら、一月の二十三日くらいからまた咳が出始めた。さすがにこれは単なる風邪ではないのではないか、肺炎とか気管支炎とか胸膜炎とか重大な病気ではないかと考えたが、咳以外の症状はなくて熱は平熱、だるさもなく咳をしていなければピンピンしていて食欲も平常どおりだ。ただ咳がひどくて、のど(上気道)の違和感が強く、ムズムズが非常につよくて、咳き込みが続くと吐きそうになるのである。咳が連発すると、刺激の場所によっては吐き気も同時に出ることがある、というのは知っていたがこれがまさにそれで、耳学問を自分で体験した感じだ。電車の中で咳き込んで気持ち悪くなってえずきそうになるのにはさすがに参った。

 医師の診察をうけると、気管支炎や肺炎の特徴的なものが診うけられないから、一連の風邪が完治しないでこじれてしまったのだろう、ということだった。受診するほうとしては、それをどこまで信じるかというのは問題であって、過去には風邪といわれて実は重大な病気で手遅れになった例は枚挙に暇がなく、一方で医者に言わせると本当に風邪なのに、重大な病気だと信じて疑わない人も居るようでこれまた医者にとっては困り者だそうだ。

 個人的には、医師に受診しても風邪だといわれて同じ治療を続けられても一向によくならない、患者(私)が症状を訴えても、それに対する説明もろくにないとか、それを緩和しようとしないとか、症状がひどくなっているのに適切な対策を講じない(これは論外かもしれないが)などは、転院の必要ありと考える。開業医と患者というのは基本的には信頼関係であるから、それが成り立たないような医師にかかるのはやめたほうがよいし、患者としても医師との信頼関係を築く努力は必要であろう。一度の診察だけで判断して医者を渡り歩くのは愚かなことだが、だからといって付き合いの浅い医師(親の代から診てもらっているようなホームドクターがあればそれが一番だ)を盲信して重大な病の初期症状をみのがして重くなるのも馬鹿らしいことだ。

 いくら相手が医師であっても、自分の体を人任せにはしないというのは大切なことなのかもしれない。本当に信頼できる医師に出会えるまでは、自分で医師を見分ける努力を続けなくてはいけない。


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