都市排熱によるヒートアイランド現象が年々確実にすすみ、皇居や小石川植物園、明治神宮の杜などでは、昔の東京の気候では自生が不可能だと言われていたシュロが自生をしてえらい勢いで増えているそうで、関係者はその刈り取りに躍起になっていると聞く。シュロの自生が進んでいるというのは、それだけ年間平均気温が熱帯のそれに近づいており、最低気温も年々上昇傾向にあるからであろう。
確かに、昔の東京は十二月になると十分寒かったし、時にはホワイトクリスマスすら見ることもあったが、今はホワイトクリスマスどころか二月になって積もるほどの雪は滅多に降らなくなった。たまに時期外れの雪が降るのを除けば、いわゆる冬と呼ばれる十二月から二月の間に積もるほどの雪はほとんど降らなくなった。
こんな具合に人工的な温暖化が確実に進み破滅への歩みを止めようとしない東京の街でも、さすがに二月くらいになると冷え込んできて、早朝の外気温が氷点下になることも珍しくは無い。とくに今の時期(二月中旬〜下旬)は大変に寒くて、二十五日の金曜日に仕事で、朝の新宿のビルへ都営12号線西新宿5丁目駅から歩いたときは、身を切るような冷たい強い風で体感気温は確実に氷点下となり、まさに体温がどんどん奪われてゆく感じになった。寒いのは個人的には好きではないが、やはり冬は思いっきり寒く、夏は思いっきり暑いほうが季節感があるし、景気のためにも冬は寒く夏は暑いほうがよい。
今の自宅はマンションなので断熱性は極めて高いが、それでも早朝の寝室はそれなりに冷え込んでくる。私は底冷えのする京都の街中の隙間風の吹く木造家屋で育ったから、本来はこうした寒さに強いはずなのだが、もはや歳とともに肉体の耐寒性能が悪くなってしまい、今は暑さ寒さに弱い温室育ちのおぼっちゃまの体になってしまった。
さて、ここからがようやく本題の寝具の話しだ。昨年冬の私の寝具はというと、敷のほうは、4cm厚のマットレスにかなり上質の羊毛敷布団、それにダウン95%の肌掛けとダウン90%の掛布団、ピローは当然アメリカから個人輸入で購入した柔らかなキングサイズのダウンピローだ。私が寝ている位置は部屋の中の一番窓際であり、これが部屋の一番奥にくらべるとかなり寒い。部屋の位置だけではなく、自分と窓の間に自分以外の人間が寝ているかどうかの差もかなり大きい。とにかく寒がり屋の私が一番寒い場所に寝ているわけで、いくら羽毛掛布団といえどもそれだけでは私は寒くて仕方ない。それゆえ、最初に肌掛羽毛布団を掛け、その上に普通の羽毛布団を掛けるわけで、これまでずっとそのようにしてきた。
それがこの冬はちょっと違う。まず羊毛敷布団の上にフェザーベッドを敷くようになった。日本では今だかつて店頭販売されているのを見たことがないし通信販売でも一度だけ住商系のカタログに載っていたことがあっただけだが、羽毛を使った一種の敷布団で本来はベッドマットレスの上にのせて使うものだ。いろいろな構造を持ったものがあるが、私が使っているのは床側には体を支えるクッション性を確保するためにスモールフェザーを、体のあたる側にはやわらかなダウンを使った二層構造のもので、縦方向に2列の内部仕切りがあり羽毛の過度の移動を防いでいる。厚みは膨らませた状態では十数センチくらいあるだろうか。ふっくらとした見るからに魅力的なものだ。
さらに、最大のポイントは掛布団で、カナダの "Old Europe Duvet Co." という会社に直接交渉して特にオーダーをして羽毛を増量してもらったものだ。羽毛の量は16ozを増量して送料48oz (1361g) とたっぷりだ。この布団の特徴は日本でよく見る羽毛布団のように、仕切りのキルティングのます目が細かくないことだ。中央縦方向内部に厚さ30cmの仕切り布が入っているだけ、つまり細長い羽毛のバッグを左右につなぎ合わせたような感じになる。
羽毛の品質がよく、羽毛が自由に泳げるバッグのサイズが日本のそれのように細かすぎて圧迫されないため、眠る前に軽くパタパタとならしてやるだけで、以前使っていた羽毛布団の倍以上の厚みに膨らみたっぷりと空気を含む。羽毛布団が暖かなのは羽毛がたっぷり膨らんで、そこに最良の断熱材である空気の層ができるからであり、ふっくらと膨らんだときの厚みは軽く十数センチ以上、おそらく二十センチちかくはあるだろう。これをみると大変高そうだが実はそうではない。価格的には日本の羽毛布団の許せる品質を持った品のバーゲンローエンド価格である三万数千円で、それもカナダからの送料込みである。
この羽毛布団を使うことで、昨年までの肌掛布団は全く不要になってしまった。布団に入った次の瞬間フェザーベッドとこの羽毛布団のおかげで、布団の中の空気はすぐに暖まり、暖かくなった空気はフェザーベッドの羽毛と、他に類を見ないふんわりした羽毛布団のおかげで熱が逃げてゆかないのだ。
日本の羽毛布団で安物を買うと、羽毛がひどいものであるだけではなく、キルティングのます目の部分が上布と下布をミシンで縫い合わせただけのものだったりする。これはもう最悪中の最悪の品で、ミシン目の部分には当然羽毛は入らず上布と下布があるだけになり、重要な羽毛による空気層が存在しない。だから保温機能はかなり劣る。
またこのカナダ製の羽毛布団を使ってわかったのは、私の知る他の多くの羽毛布団のます目は2〜3センチ程度の厚みしかない布で仕切りをしており、結果的に小さく厚みの少ないます目に羽毛を圧縮してつめこんでしまい、羽毛が広がらず空気の層も薄くなるのである。その結果断熱性からみるとたいしたものではなくなってしまいかねないし、実際問題私のようにその手の羽毛布団だけでは足りなくなる。
このカナダ産の羽毛布団は厚さ三十センチほどの仕切りが縦方向中央に一つあるだけだで、他の多くは正方形に近い形に比較的細かく仕切られている。これは羽毛の移動と方よりを防ぐためなのである。だから、前者のほうは寝る前には羽毛布団をかるくたたいて羽毛を均等にならす必要があるが、後者はそんな必要は無い。古いヨーロッパスタイルの羽毛布団では仕切りがまったくないバッグタイプのものすらあるが、これなどもやはりベッドメイキングのときにきちんと羽毛をならす必要がある。
仕切りのます目が細かくても、十分な高さの仕切り布(数センチといったものではなく、少なくとも十数センチ以上)があれば、羽毛のダウンボールはおさえつけられることなくふっくら膨らむのだが、そのためには羽毛も上質なものがより多くの量が必要になる。しかし、キルティングのように絞り込むというか上下で抑えつけるようにすることで、ます目の中央部はふくらんで、いかにもふっくらとして見えてくる。つまりより少ない素材でより豪華に見えるわけで、ここについついだまされてしまう。
このカナダ産の羽毛布団のように仕切りが少なくて厚みも厚いと、確かに羽毛の偏りが生じやすいのだが、一方で上質な羽毛が使ってあれば、ベッドメイキングでパタパタと偏りをならし空気を含ませることで、ダウンボールはたっぷり広がり、かさだかさも確保でき、広いスペースの中で膨らんだ羽毛が自由に動き回ることができ、体の凹凸にたいするフィット性も格段に高くなる。
世に寝具評論家(研究家)みたいな人は寝具メーカーをはじめとして大学などにもいるようだが、その中の何人がこのカナダ産のようなタイプを実際に自分でつかってみたろうか。使いもせずにキルティングのます目がある程度こまかくないと、偏りがおきてつかいにくいと教科書的な側面だけで評価しているように思えてならない。
この "Old Europe Duvet Co." の羽毛布団は、好みで羽毛を増量してやれば手ごろな価格で日本では手に入らない素晴らしい布団になる。今までの私の寝具生活の中ではいちおしの掛布団である。
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