「あいちゃんの散歩道」

第11回 英語の辞書の話


 私がパソコンの電子辞書や携帯用の電子辞書の愛用者であることは、何回か前の「あいちゃんの散歩道」で書いた通りである。私がもっている電子辞書の類についてはそちらを参照していただきたくとして、いくつかあるそれらのなかで普段使う辞書は、内容の良し悪しや使い勝手の問題から、おのずから特定のいくつかのものになっている。

 PC上の辞書で愛用しているのは、私の使用頻度から行くと次のようになる。

1: 英辞郎・和英辞郎 (http://www.nifty.ne.jp/eijiro/)

 @NIFTYの英語関連フォーラムであるFENGC (英会話フォーラム・コミュニケーション館)で、プロの翻訳家が自分達のために作ったものが好意で無償公開されている、内容は頻繁に改定・追加されており、最近の Ver.33 の英和辞書(英辞郎)では収録見出し語数はついに81万語を超えた。その意味では日本でもトップクラスのものだ。他の市販辞書に載っていない現代的な言いまわしや熟語・単語なども豊富であり、その部分では絶対に他の市販辞書の追従を許さない。英語ニュースなどを読むには必須辞書である。

 検索ソフトのPDIC(シェアウェア)と組み合わせると、発音記号表示も可能だし、動きは非常に軽くて、検索方式がインクリメンタル検索であるので使いやすい。また、設定によりWebブラウザ等でわからない単語を選択してControl-Cを押せば(クリップボードにコピーすれば)直ちに検索されて検索結果がポップアップされるという機能もあり、これは英文のWebサイトやWeb・メールの英文ニュースを読むには実に都合が良い。市販ではカーソルを上に置くだけで訳語が出るものなどもあるが、なんといってもPDICはシェアウェアで安価、ベースとなる辞書は日本一の見出し語数を誇り、その単純な仕組みからしてフォントの種類や対象となるソフトウェアを選ぶこともないのは大きなメリットだ。

 ちなみに、フリーソフトのPDIC/CE (http://member.nifty.ne.jp/TaN/pdicce.html) を使うと、フラッシュメモリカードの容量さえ確保できれば(英辞郎をPDIC for CE用にコンバートすると40MBにもなる)、WindowsCE上でもこの素晴らしい辞書を使うことができるはずだ。

*インクリメンタル検索
 入力欄にアルファベットで検索したい単語を入れてゆくとき、1文字ずつ入れるにつれて候補が表示されどんどん絞り込まれてゆく。例えば "love" を調べるとき、Lを入れるとLで始まる語が表示され、Oを入れるとLOで始まる語に絞り込まれ、VでLOVで始まる語となり、EでLOVEで始まる単語や熟語が表示される。したがって場合によっては長い単語を最後まで入れなくても検索できる。

2: Microsoft BookShelf Ver2.0 (http://www.microsoft.com/japan/reference/bookshelf/)

 言わずとしれた、マイクロソフト社の辞書・辞典ファミリーの一つだ。いくつかの辞書が一つになっているもので、やはりインクリメンタル検索方式で、さらに一回の検索で全部の辞書を検索できるのがありがたい。含まれる辞書は、私が好きな辞書の一つ(嫌いな辞書は、よく電子化されているものであるが研究社の英和中辞典、和英中辞典であり、内容の古さ・堅さ・例文の少なさで私にはあまり役にたたない、無いよりマシという程度)である、小学館プログレッシブ英和中辞典、小学館プログレッシブ和英中辞典、小学館国語大辞典、小学館類語例解辞典(日本語)、小学館故事ことわざ辞典、データパル、そして特筆すべきが英英辞典のAmerican Heritage Englsih Dictionaryだ。

 Microsoft Bookshelfシリーズには Microsoft OfficeシリーズのおまけについているMicrosoft Bookshelf Basicというものもあるが、これは英和・和英と国語だけを収めたものだ。American Heritageは、内容も新しく、重要な語は歴史や他の語との使い分け、あるい差別的・非差別的な表現などについても載っており、解説もOxfordなどに比べると平易なのがよいし、私のように英語ではなく米語を学習しているものには、やはり英語メインのOxfordより、米国に根ざした辞書のほうがありがたい。ただ、学習辞典ではないので、用法などは載っていない。実用英英辞典として私が好きな辞書だ。

 Microsoft BookShelfのメリットのもう一つは、多くの語にネイティブの発音音声データが入っていることで、単語の横に出るスピーカーアイコンをクリックすれば、PCのスピーカーからネイティブの発音が出てくるのもなかなか素晴らしい。音声データの容量をけずるために音質はいまいちなのはちょっと残念だ。

3:新編 英和活用大辞典(CD-ROM版)(http://www.kenkyusha.co.jp/guide/dic/dic-ej.htmlhttp://www.kenkyusha.co.jp/guide/dic/dic-ed.html)

 英語(に限った話しではない)には、collocation(語と語のつながり、連語)がある。典型的なのは前置詞との組み合わせで、前置詞+名詞・代名詞、動詞+前置詞、動詞+助動詞など非常に多くの連語があり、これらが慣用的に使われている。普通の英和辞典では意味を解説するかわり、これらのcollocationを詳しくカバーすることはできず、一部が用例として掲載されているにすぎない。しかしこの「英和活用大辞典」はそれらを、38万例の文例として掲げており、英文を書くときには必須といってもよい。書籍だと17.5×25.5cm版で2110ページにもわたる大きくて重い辞書だが、私はこれのCD-ROM版を愛用している。

 書籍版やCD-ROM版のほかに電子ブック版も出ており、電子ブック版はDDWIN32というフリーウェアの検索ソフト(http://www.forest.impress.co.jp/library/ddwin32.html)で検索が可能だ。CD-ROM版にはインターネットViewIngという検索ソフトがついているが、これを使わなくてもDDWIN32でも検索可能のはずである。この辞書は私の友人から存在を教えてもらった辞書であるが、今や、私はこれがなければ英文を書くことは不可能である、といっても良い優れものだ。とにかく文通であれ通販であれビジネスであれ日記であれ、英語を書くことが必要な場合には必須の辞書だ。これを持つなら分厚く扱いにくい書籍版ではなく、全文検索が可能で価格的にも書籍版より安いCD-ROM版、もしくは電子ブック版をお勧めしたい。

4:COBILD on CD-ROM (http://titania.cobuild.collins.co.uk/cdroms.html)

 英語学習者用の英英辞典である。英語学習者用の英英辞典としては、Oxford Advanced Learner's Dictionaryが日本では非常に有名で、ほかにLongmanのも比較的勇名だ。このCOBUILD on CD-ROMは、籍版の Cobuild English Language Dictionary, English Usage Guide, Cobuild English Grammar の三つを一つの辞書CD-ROMに格納したもので、ほかにワードバンク (a Word Bank of 5 million words of authentic written and spoken texts) もついているものだ(£40)。

 COLLINS社の辞書が、他社の学習用英英辞典と大きくことなるのは、意味の解説と語の用法が一つになって説明されていることだ。一般の英英辞典は語の意味を解説しているだけだが、この辞書は意味と文中での使い方を同時に知ることができる。どういうことかというと、意味に説明をするのに単なる言いかえではなく、フルセンテンスで説明しているのである。他の辞典では意味はわかったが自分が使うときにどう使えばよいかよく分からないというのは、結構よくある話だが、この辞書はそれを比較的簡単に解決してくれる。たとえば、"shrug" であれば、"If you shrug your shoulders, you raise them to show that you are not interested in something or that you do not know or care about it. "という具合である。実に単純明快で的を得た説明で "shrug" の後には名詞(肩)がくればよいことがわかる。"dog" になるともっと愉快で、"A dog is an animal that is often kept as a pet or used to guard or hunt things. " となっているから面白い。"abandon" は、"If you abandon a place, thing, or person, you leave them permanently or for a long time. " と、実に簡単にさらりとわかりやすく言い換えて説明し、なおかつ用法もわかるというものだ。これは思いつく単語を引いてみるだけでも楽しい。この説明の仕方には馴染めないという人が存在するのは事実だが、英語教育に携わる人や英語を生業とする人からの評価も高い辞書だ。

 この辞書になされているように、ある言葉を簡単に説明することは大変勉強になるし、説明の仕方も単に意味を知るだけではなく、文を知る・言いまわしを知る上で多いに役に立つ。さらにこれらの説明は基本約2500語で解説されているので平易だし、中学三年〜高校生にとっても英語学習にはもってこいであろう。

 このCOBUILD on CD-ROMはやや古い "Collins COBUILD English Dictionary"の初版をベースにしているのと、GUIが古い感じで操作性も今ひとつなのが難点だ。現在は、「改訂新版」をベースにした "Collins Cobuild E-Dict" が発売されており、32ビットアプリになり、GUIも改善されているようだ。どちらも洋書扱い店などで入手できるはずで価格は知る限りでは12000円だ。しかし前述のCOLLINS社は海外向けの直販もしており、E-DICTもCOBUILD on CD-ROMも£40(六千数百円〜七千円位)に若干の送料だから、直販から勝ったほうが安上がりであろう。

 ちなみにCOBUILDシリーズは、電子辞書にはないが、COBUILD DICTIONARY OF PHRASAL VEBSというものもある。これは「句動詞」ばかりを集めて解説したものだ。句動詞というのは「動詞+前置詞」あるいは「動詞+助動詞」で動詞の働きをするもので、英文中では実に多く現れるるが、その割には一般の辞書で調べるのはやっかいだったりするし、また多くの句動詞は複数の意味を持っているのに、一般の辞書にはそこまで出ていないことのほうが多い。英英辞典でもそうなのだから、和英辞典に至っては惨澹たるありさまだ。句動詞に関するこの辞書は、一つはもっていて損はないと思う。例によってCOBUILD方式の、フルセンテンスで意味を説明する方法をとっているので、非常にわかりやすいのが特徴だ。

 私が普段PCで利用しているのは、以上の四つの辞書である。他にもリーダーズ英和辞典(研究社、電子ブック版)、英和・和英中辞典(研究社、電子ブック版)を持っているが残念ながら私の目的や用途には添わないことや、辞書そのものの内容が気に食わないことからほとんど使っていない。語彙数だけで言えばリーダーズより英辞郎のほうがはるかに多く、コンテンポラリーなのである。

 これらの辞書は、愛用のノートPCで使っているわけだが、辞書の使い方として理想的なのは、いつでもポケットにいれておき、疑問が湧き出たら直ちにその場で調べて理解し覚える事だろう。言うのは簡単だが実際にはひどく難しい。紙の辞書だと、上記四冊なんてとてもじゃないけれど携帯できる大きさ・重さからは程遠いし、本棚から出すのさえ億劫になったりしかねない。ノートPCの辞書だと、これら四種の全辞典合計の大きさ・重さよりは、はるかに小型軽量になるが、それでも肌みなさずとはいかないし、仮に通勤でノートPCを持ち歩いていたとしても、車中でたった一語のためPCを取り出して調べるというのは、かなり厄介なことだ。

 その点、私が現在愛用しているポケット電子辞書 "SONY DD-IC100" は実にすごい。シャツの胸ポケットに楽に入る大きさ(ちょっと太った名刺入れくらいで、幅100×高さ19.6×奥行70.3mm)、重さ(電池込み125g)ということで、私はいつも胸ポケットにこれを入れている。最近では愛用のJornada680は持たないようなときでも、これだけはポケットに入れる位で、ほとんど携帯電話やPHSと同じくらいの携帯頻度である。

 "SONY DD-IC100"は、前にも書いたとおり内容的には、小学館プログレッシブ英和中辞典第3版小学館プログレッシブ和英中辞典第2版プログレッシブカタカナ語辞典(見出しのみ)が入っている。このカタカナ語辞典は以外と便利で、映画やテレビなどで音だけ耳に入ってつづりが分からなくて他の辞書では調べようがない場合などに威力を発揮する。ただ、私の希望から言えば、このサイズに上記四種全部が入ってほしい。具体的には国語大辞典・類義語・データパルは不要で、「英辞郎」、「American Heritage English Dictionary」、「Collins COBUILD E-DICT」が追加されてほしい。学ぶための辞書としては「COBUID」は秀逸だが、何かを読むために調べるものとしては「American Heritage」のほうが適切だ。さらに新しい語や言い回しなどは「英辞郎」が不可欠だ。特に「英辞郎」は頻繁にアップデートされるので、スマートメディアなどに格納して書き換え可能にするのが良いだろう。人によっては「リーダーズ英和+リーダーズプラス」がほしい人はそれらと差し替えもいいかもしれない。ただ、差し替え機構をつくることで大型化するのは避けられないから、そうなると「英辞郎」は残念ながらあきらめざるを得ない。せめて「American Heritage」はつけてほしい。

 DD-IC100への希望は希望として今は実現できない相談であるが、たとえ現在の英和・和英でも普段持ち歩いてこまめに調べるのには、DD-IC100は実に好都合である。単純なことだが配慮が行き届いている。まずはその大きさだ。他の類似電子辞書はいずれももっと大きくてポケットというよりバッグにしか入らない。ポケットとバッグの差は絶大で、胸ポケットにあるならすぐに取り出して調べようという気になるが、バッグの中だとつい面倒になってうやむやになりがちなのが人間というものだ。

 さらに電源スイッチにも工夫がある。多くの他の製品は電子辞書を開いてそれから改めてスイッチをいれなくてはならない。しかしDD-IC100は開けば電源が入り、閉じれば電源が切れる。つきっぱなしを防ぐためにオートパワーオフがあるから、再度電源を入れるために一応電源ON/OFFボタンはあるが、オートパワーオフになったのを再度入れる以外にはまったく使わない。大きさが小さいからややボタンが押しにくいのは仕方ないが、検索は私の好きな「インクリメンタル検索」だというのも良い。拡大機能を使えば書き方の分からない画数の多い漢字を美しい拡大状態で調べることもできる。たとえば和英辞典で「ばら」と入れると「薔薇」が英語とともに表示されるので、拡大ボタンを押すだけでそれを見ながら漢字を書くことができる。憂鬱なども同様である。

 辞書は利用者の目的によって適切なものが違ってくる。翻訳家が必要とする辞書と、英会話を勉強する人が必要とする辞書は違うし、英語教師と外資系会社につとめる日本人でもこれまた必要な辞書は異なる。それぞれいろいろ試行錯誤を繰り返して適切なものを探し出せばよいが、私がさきに掲げた辞書は英語に関わるいろいろな人からも、評判が良いものであり、英語学習から英語で飯を食うに近い状況の人まで、ファーストチョイスにしても悪くはないと思っている。

 とにかく良い辞書を身近においていつも使うことが英語上達の近道であると、自身に言い聞かせて毎日これらの辞書に親しんでいる。


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