「あいちゃんの散歩道」

第23回 Wake on LAN


■ Wake on LANとは何か?

 Wake on LANとは何かというと、読んで字のごとくである。電源が切れているPCをLAN経由で電源を投入しようというわけだ。なぜそんな必要があるかというと、オフィスや学校のコンピュータ教室などに備え付けられているPCのソフトウェアのバージョンアップをしたり、メンテナンスをするため、というのが主な理由だ。

 こうした作業をするのには、従来は管理者がCD-ROMをもって一台一台のPCのソフトウェアをバージョンアップしてまわったわけで、数台程度ならともかく、何十台もあるような場合では、とてもじゃないけど一人では面倒を見きれないというのが難点であった。作業そのものは機械的かつ単純なものが多いから、なんとか自動化できないかということで生まれたのがこの技術である。つまり、通常のオフィスでは人が居なくなった深夜に、あらかじめ手順を組み込まれたサーバーからの指示で、教室やオフィスのPCをLAN経由で自動的に起動し、プログラムを更新したりメンテナンスしたりしようというわけだ。

 これを実現するためには、ハードウェアとソフトウェアがWake on LANに対応しなければならない。あたりまえであるが物理的に完璧に電源を遮断するタイプの電源スイッチが切られていてはLANからの指示で電源など入るわけがない。リモコン対応テレビのように、LANからの指示を受けられるだけの最低限の部分には通電しておき、電気を食うCPUやディスクなど他の部分は完全に電源供給を建ってしまうようになっていなくてはならない。

 つまり、PCの専門用語的に言うと、(1) 電源がWake on LANに対応していること、(2) LANカード(NIC)がWake on LANに対応していること、(3) マザーボードとBIOSがWake on LANに対応していること、(4) OSもWake on LANに対応していること、が必要だ。

■ 我が家にもWake on LANを!

 何故、我が家にWake on LANなのか?それは前回(第22回)の最後のほうで書いたISDN導入と関係がある。以前からパソコンで通信中には電話がつながらないと家人からクレームが出ていたこともあって、IP定額接続のフレッツISDNを申し込んだ。ISDNのほうはすぐにでもOKということであったが、フレッツは申し込み多数のためまだしばらくは待ちになるという。それでもアナログ回線よりは速いので、まずは普通の従量制のISDNだけでも使い始めた。

 ISDNというと接続するには一般的にはTA(ターミナルアダプタ)が必要だ。しかし、私はそんな古臭くて七面倒なものは使わない。それにミッドタワーが二台、ノートが二台、それにCEがある我が家ではTAなんて使っていた日には面倒で仕方ないではないか。セキュリティの意味からも繋ぎっぱなしが多くなるフレッツではTAなんぞ糞食らえだ。ということで、私が選んだのは当然ISDNダイヤルアップルーターである。

 ダイヤルアップルータのよいところは、LAN側のアドレスがWAN側からは見えないことであり、これはTAで常時接続するのとは大きく異なるセキュリティ上のポイントだ。さらに我が家ではこれまで100Base-TXのスイッチングハブを利用して、家庭内LANを構築していたから、このスイッチングハブからダイヤルアップルーターまでの間をカテゴリー5のLANケーブルで結ぶだけで、あとはダイヤルアップルーターの設定さえきちんとしておけば、他のPCではデフォルトゲートウェイさえ設定してやれば、わざわざTAを繋いでドライバを組み込んで、なんて面倒なことなしにすぐにインターネットにアクセスできるのである。まさにガチャポンでインターネットなのである。だから、何をいまさらTAなどという古臭い手段を使う気になるだろうか。

 さて、私が買ったのはNECのCOMSTARZルーターだが、これにはPHSからのデータ通信着信を受けて、ルータのLAN側に繋ぐという機能がある。もちろんどのPHSでもいいわけではなく、あらかじめルーターに登録しておいた電話番号のPHSからみ受け付け、さらにユーザとパスワードチェックがかかる仕組みになっている。そして、着信を受けたらWake on LANに必要なパケット(マジックパケット)を送り出す機能もある。

 つまり、これを使えば、わざわざあらかじめ自宅に電話してPCの電源投入を頼まなくても、すべて外からの操作で可能になるのだ。PHSの64Kあるいは32Kデータ通信で、PHSがつかえるところならどこからでも自宅のPCにつながるというのは、画期的な出来事ですらある。

 ようやく説明の結論にたどりついたが、こういう背景があって我が家のPCにもWake on LANを導入しようと思い立ったわけだ。

■ 条件の確認

 Wake on LANの対象となるのは、私がメインで使っている弐号機(PentiumIII-733MHz on Intel VC820 mother、128MB-RIMM、Windows2000 Professional/Windows98SE)である。壱号機のGateway GP7-450はサブマシンで娘もつかっているもので、今回は対象外だ。

 まずやるべきことは弐号機の動作条件チェックである。まず、筐体のカバーをはずして電源ユニットに書かれている定格をみる。+5VSBは1.0Aであり720mAの最低限の基準をクリアしているから問題はない。次にNICだが、最初に私が購入したものは残念ながらWOL非対応なので早速安いものでWOL対応のものを購入するが、買値でも三千円を切る値段でWOL対応の100Base-TXのLANカードが買えるのはうれしい。そしてマザーとBIOSだ。Intel VC820マザーだが、http://www.intel.com/ から技術資料のPDFをダウンロードしてチェックするとWOLはOKとうことで、特にBIOS上の設定も不要だ。最後にOSだがWindows98SEとWIndows2000はどちらもWOLに対応しているはずだ。あとはNICのドライバもそれに対応しているはずなので、理屈の上からは条件は整った。ちなみにWOLの起動パケット(Magic Packet)は、テストでも本番同様ISDNダイヤルアップルーターから出させてみる(そういうテスト機能がついている)ことにした。

■ Windows2000で、いざ実験

 新しいNICをインストールするのだが、私が買ったものはマザーがPCI2.2に対応していれば、WOLケーブルを接続しなくてもWOLするという。マザーの資料ではプロセッサのほとんどの状態(スタンバイ、ハイバネーション、ソフトオフなど)で確実にウェイクさせるためには、WOLケーブルの接続があったほうがよさそうだ、ということでマザーの資料をみながらWOLケーブルでNICとマザーを接続する。

 VC820にはBIOS設定の中にはWOL関係の設定はないので、あとはWindows2000を起動して新しいNICのドライバをインストールして認識されればよい。これについてはごくあたり前の手順だから省略する。

 さて、私が買ったNICはCoregaの"FEther PCI-TXM"というもので、NICのドライバの設定のなかにMagic Packetを有効にする設定がデバイスマネージャのプロパティに存在するから、それを有効にすることを忘れてはいけない。Wake on LAN対応のLANは当然ACPI対応であるから、ACPIとWake on LANに対応しているLANカードには、デバイスマネージャのLANカードのプロパティに「電源の管理」に関する設定があるのでそれも有効にしなくてはいけない。それが「このデバイスで、コンピュータのスタンバイ状態を元に戻すことができるようにする」と「電力の節約のために、コンピュータでこのデバイスの電源をオフにできるようにする」の二つのチェックボックスである。Wake on LANにするときは、この二つのチェックボックスにチェックをいれるわけである。

 ここまで設定したら、私のPCの環境では全部設定は完了だ。理屈からいえばこれでめでたくWake on LANができるわけだが、世の中には、マザーボード、電源、LANカードの相性があってなかなかうまくゆかないのが常なのである。

 憂慮していても仕方ないのでとにかく実験だ。まず、スタンバイ状態にしておく。そして別のPCからISDNダイヤルアップルーターの設定画面を呼び出して、ダイヤルアップルーターのWake on LANの対象として、このPCのIPアドレスのNICのMACアドレスを設定する。そしてMagic Packetを送り出すと.....無事にディスクがうなりだしてスタンバイから復帰した。

 次はWindows2000のハイバネーション状態(休止状態)からの復帰である。弐号機をハイバネーションにすると、LANカードの電源の管理の設定が正しくできていると、本体の電源は切れてもLANカードのLINKランプ、スイッチハブのLINKランプは点灯したままであり、LANカードは給電状態(アクティブ)にあることがわかる。これが点灯していない場合は最初からアウトであって、そもそもLANカードが生きていないのに、Magic Packetなんか受け取れるわけがないのである。もちろん弐号機のほうのLANカードもハイバネーションになってもLINKランプは点灯している。そしてダイヤルアップルーターから、Magic Packetを送り出すと無事ハイバネーションから復帰...するはずだったのだが、ぴくともしない。なんどやってもぴくともしない。しかしスタンバイ状態からは復帰する。

 では、ということで、今度はソフトオフの状態(Windows2000からシャットダウン)すると...なんと、LINKランプも切れてしまい、LANカードへの給電がたたれてしまい、当然Magic Packetには反応するわけがない。

 このあと、機会があってSP1を適用したので再度実験を試みたがまったく同じであった。

■ Windows98 Second Editionではどうだろう

 Windows2000がだめならWindows98SEがある。弐号機はこの二つのOSのデュアルブートである。LANカードのデバイスマネージャのプロパティで、Magic PacketをOKにして、「電源の管理」で二つをチェック(実際には二つのうち後者はチェック状態でグレーアウト)して、いざ実験だ。

 まず、スタンバイ状態からはWindows2000同様にまったく問題なくwakeする。つぎにWindows2000でだめだったハイバネーション...といきたいが、Windows98SE自身にはハイバネーション(休止)モードはない。ノートパソコンではパソコン本体(BIOS)のほうでハイバネーションをサポートしているがOSそのものにはこの機能はもっていない。

 最後にソフトオフである。Windows2000では同じ状態にすると完全にLANカードの電源もい切れてしまったというやつだ。Windows98SEではというと、シャットダウンしてフロントパネルの電源ランプは消えてディスクもとまるが、LANカードのLINKランプ、スイッチハブのLINKランプも点灯したままで生きていることを示している。これは、期待がもてるということで、ダイヤルアップルーターからMagic Packetを送ると無事電源が入って起動した(起動したがWindows2000のブートメニューでデフォルトはWindows2000にしているため時間が経過すると自動的にデフォルトのWindows2000が起動してしまうが)。

 なんどか実験をくりかえしたが、Windows2000ではハイバネーション、ソフトオフの状態からは絶対に復帰しなかった。

■ Epson Endevor Pro-600Lではどうだろう

 私が会社で自分用につかっているのはEpsondirectのEndevor Pro-600LのBTOで、これもちゃんとWake on LANに対応した電源、BIOS、LANカードをもっている。そこで会社のPCでも実験してみた。

 結果からいうと自宅の弐号機とまったく同じなのだ。Windows98SEではスタンバイおよびソフトオフから復帰するが、Windows2000だとスタンバイからしか復帰せず、ハイバネーション(休止)およびソフトオフからは復帰しない。

 ただ、Pro-600Lの場合は、ソフトオフしてもLINKランプは点灯したままであり、これが切れてしまう自宅の弐号機とはこの点で異なっている。自宅の場合はマザーなのかLANカードなのか両方なのか、どちらに原因があるのか不明だがとにかくソフトオフでWindows2000では完全に切れてしまうが、Pro-600Lはちゃんと点灯しままになっている。にもかかわらず起きないのはどうしたわけだ。

 二つのまったく異なるハードウェア構成で若干状況はことなるとはいえ、ハイバネーションからもWindows2000がwakeしないのは、Windows2000の問題としか思えない。それがいわゆるバグなのか仕様なのかというのはあるが、ソフトオフ、ハイバネーションの状態から起動してくれなくてはまったく意味がない。

 マイクロソフトの英語および日本語のKnowledge Baseを調べたがそれに該当するものは見当たらなかった。

■ 残念ながら

 自宅のメインデスクトップのメインOSがWindows2000であり、そのWindows2000がWake on LANに満足に対応していないのだから、PHSで自宅のダイヤルアップルータに電話をして、自宅のPCの電源が切れていても自宅のPCの電源をいれて、接続するというのは今のところ実現できる見とおしがない。困ったものだ...。


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