「あいちゃんの散歩道」

第32回　MD、反対論と賛成論

■ MDはオーディオの敵か？

　MD登場以来、MDはオーディオの敵であるとか、MDは音楽を破壊しているとかいった過激なものから、やはり非圧縮デジタルオーディオのCDとの差は明らかだといったソフトなものまで、MD反対の立場の意見は絶える事がない。

　一方、MDは音楽を屋外に持ち出すという点に置いては、従来のヘッドホンステレオ以上に活躍しており、価格も一万台前半で買えるものもの多く、今や量販店のポータブルオーディオ売り場の三分の二以上はこのヘッドホンステレオMDプレーヤーで占められているようだ。

過激な反MD論においては、筆者の知る限り従来のCDやDATと同じ立場で同じよう比較して論じて、その結果MDを否定しているものが多いような気がする。そもそも同じデジタルオーディオで非圧縮のCDやDATと、圧縮しているMD（正確にはMDはメディアの名前であるからMDのオーディオ記録に使われているATRACという圧縮形式）とを同列に比較することが良いのだろうか。その比較対象になっているCDやDATだって、アナログ愛好者からみればとんでもない代物であることに違いないのであるから、安直な比較はいかがなものか。

■ メリットとディメリット、ユーザーが求めるもの

　物には必ず長所と短所がある。長所だけが存在するものはこの世にはおそらく存在しないであろう。CDやDATにだって短所は多くあるし、長所だって多い。アナログレコードだって同じだ。もちろんMDとて例外ではない。

これらの長所と短所は、それらを使う人、つまりユーザーがその求めるところに当てはまるかどうかで、そのユーザーにとって価値があるものかどうかが決まるのであり、絶対的な尺度で良いとか悪いとかいったものではないことを忘れるべきではない。

　MDについて言えば、長所は明らかにそのコンパクトさ（メディアだけではなくプレーヤーの駆動部もコンパクトに作ることができる）、CDにくらべても取り扱いの容易さ、頭出しの速さ（テープのように巻き戻しや早送りは不要である）であり、一方短所はATRACで圧縮しているが故の音質の変化（あえて低下とは言わないでおこう）、あるいはそもそもデジタル化することでの音質の変化であろう。

これらの短所、長所を踏まえて見れば、冒頭のようなMDはオーディオの敵である、といった議論そのものがなぜ噴出すのか不思議でならない。ほどほどの音質で気軽に音楽を屋外に持ち出せることは大変すばらしいことだし、それを求めるユーザーは非常に多いから、これだけ爆発的に普及するわけだ。

一方で、高級オーディオにMDがなかなか受け入れられず、せいぜいミニコンポどまりなのは、アンプ、スピーカー、リスニングルームなどが高品質な環境で聞いた場合、従来のCDやDAT、さらにはアナログプレーヤーとの差はあまりにも歴然としていてMDはそれらの足元にすら及ばないからである。

■ 問題は使い分け

私は昔はいわゆるオーディオマニアであったが、同時にAMラジオでも音楽を楽しめるタイプでもある。いわゆるオーディオマニアといわれる人の一部にある問題点は、彼ら（オーディオマニアの一部）は音質を追求するあまり、音楽を楽しむ心が二の次になってしまったということである。心に残る音楽というのは、高級オーディオで聞いたすばらしい音楽というよりは、何かのときに街に流れていたメロディであり、何かに思いをこらしていたときにたまたまAMポケットラジオから流れていた極めて貧相な音質の音楽だったかもしれえない。

筆者は、音楽を楽しむにはまずは音を楽しむのではなく、音楽そのものを楽しむべきであり、オーディオ装置はそれを手助けしてくれる道具にしか過ぎないと思っている。道具の性能を重視するあまり、道具に振り回されるのは筆者の立場でいうと愚かな話だ。もちろんオーディオ装置を楽しむ人がいてもまったくかまわないし、そうした楽しみ方も筆者は体験で知っている。しかし、そうした楽しみ方の立場で、そこにはまらない新しいメディア（MD）を一方的に敵視するのはどうかと思う。

現実問題、屋外に音楽を個人的に持ち出すのに、大規模なステレオ装置を持ち運ぶわけには行かないのだから、用途が違えばそこに使われる道具も異なってあたりまえなのである。それを同列に比較することそのものがあやまりであろう。

そういう意味では、筆者はMD（正確にいうならATRACあるいはATRAC3にて圧縮された音楽鑑賞のための録音メディア）はきちんとしたリスニング環境では、最高級のカセットデッキのほうがまともな音を鳴らしてくれる可能性が高いし、さほどまともではなくても、室内のBGM用ではない高度なリスニング装置としてMDを使おうとは思わない。MDをそういう用途につかうならオーディオ用CD-Rのほうがまだマシであると思う。

一方、屋外に出るなら、荷物はできるだけ小さく軽くしたいので、筆者の場合はMDかさもなければメモリ携帯プレーヤーがファーストチョイスであることは間違いなく、高価で取り扱いに手間のかかるDATや、安価ではあるがサイズが大きいポーターブルCDプレーヤーなどは選択肢に入りえない。

MDを批判する人の気持ちも理解できるし、愛用する人の気持ちもわかる。単に立場というか用途が違うから話がかみ合わないだけの話で、互いに喧嘩をするようなものではないだろう。音楽愛好家としてこれらの道具をいかにうまく自分のニーズに応じて使いわけるか、の議論のほうが重要ではないか。

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