私の趣味は今の所「PCいじり」と「パソコン通信」である。本来は趣味だけであるはずが、いつのまにか仕事でも「PCいじり」と「パソコン通信」がメインになり、昼夜なく同じようなことを職場と自宅でやっている。家にいても仕事をしているようであり、会社にいても遊んでいるような気がする。それでも本人は楽しくやっているのだから、趣味で収入を得ているような見方もでき、今の所悪い生活ではない。
さて、実は私のもう一つの楽しみは「枕」である。枕といっても枕詞や最初の意を表すそれではなく、まさに眠るときに頭をのっけるそれのことだ。以前の「お替わりはいかが?」で「実用寝具講座」なる下らぬ文を書いたが、私は寝具に関してはかなりこだわりがある。
PCの世界もいわゆる「マニア」と呼ばれる種族はある期間で買い替えたり周辺機器を買い足したりする。いってみれば私は「寝具マニア」なのである。世の中には単に寝ることができればいいと、ぺたんこになって真ん中の綿の無くなったようなウルトラ煎餅でも全然気にしない人がいるが、自称「寝具マニア」たる私には到底理解不可能である。常に自分にとって快適な眠りを得るための寝具を、どん欲に求めてやまないのである。そしてマニアという以上は寝具もいろいろなものを買い替えて使ってみたいのである。
そうはいってみても、これにはPC以上に障害が大きい。今は布団生活だがベッドは買う金銭的余裕はあれど空間的余裕がない――部屋が狭くてデスクトップパソコンが置けないのと状況は似ている。布団の買い替えはできても古い布団は中古PCと違って知人に売ることもできず塵にするしかないから、さすがにもったいない。それに何より敷布団に関しては今のものが非常に気に入っているし私の体に良く合っている。
今使っている敷布団は、結婚するとき妻の両親が買ってくれた羊毛布団だが、これがとても素晴らしい。羊毛綿の欠点として長時間同じ場所に圧力がかかると綿がフェルト状になってしまうのだ。経験的にはスーパーなどでうっている一万円前後の羊毛敷布団は、一年たたないうちに体の形の通りに癖がついてしまい、三つ折りでたたむと真ん中が三分の二から、ひどいと半分くらいの高さになってしまう。だが、この羊毛敷布団は結婚十年を経た今でも、真ん中はほとんどへこんでいないし、弾力も失っていないという優れものだから、これに満足しない訳がない。さぞかし高価だったと思うが義父母に大々感謝の大感謝である。
寝具マニアとして見捨てられないもう一つの柱は掛布団であるが、これも今使用している羽毛掛布団と羽毛肌掛布団で別段不満はない。マニアといえども満足している限りは買い替えなど考えないものだ。
そんな訳で布団については現状とても満足している。だが、PCマニアがそうであるように、マニアたるもの本体(PCあるいは布団)が満足だからといって、おさまるものではなく周辺機器にその触手が伸びるのだ。寝具の場合の周辺機器はリネン類や枕である。その中でも私が特にこだわるのは枕だ。本体(掛敷布団)に満足している反動が一挙に枕に集中しているのかもしれない。
聞くところでは、寝具メーカーのロフテーが、新宿小田急百貨店別館ハルクの寝具売り場に、専門家のアドバイスを受けていろいろ試すことが出来るコーナーを設けたところ、売り上げは一挙に他店の十倍の月二千万円になったという。単純に一個一万円としても、月あたり千個、一日平均三十三個、一時間に三個半、十数分に一個売れている勘定になるから尋常な数値ではないことがおわかりいただけよう。枕にこだわりたいというのは現代人の潜在欲望なのかもしれぬ。
アメリカでは国土の広さを背景に、通信販売が非常に発達している。電車にのること一時間で大きなデパートやショッピングセンターに行けるところは少ないのである。それが近年のインターネットのWWWの普及で、WWWを使用した通信販売が非常に盛んになってきたのだ。有名な検索サイトであるヤフー(http://www.yahoo.com/)には、"Bath_and_Bed"というカテゴリーがあり、その下位層にはベッド、ベッド用品、マットレスといったサブカテゴリーがあり、それぞれに二十前後のサイトが登録されている。同じ事をヤフーの日本版でやれば、サブカテゴリーは「寝具」ただ一つで登録サイトもたった二つである。
そのアメリカには、その名も"CyberShop"(http://www2.cybershop.com/Cybershop/Online/)というサイバーショップのサイトがあるのだが、ここがとにかく凄い。まさにデパートそのものである。日本で最大のインターネットショッピングモールでもこの足元にも及ばない。このサイバーショップの中で寝具売り場にゆくと、さらに幾つかに売り場が分類されている。
筆者追記
1997年8月初旬に再度確認したら、このショップから枕の種類が激減していた。理由は不明であるが、残念だ。
この中で"BEDROOM"という商品カテゴリを選択すると、掛布団やマットレス、ベッドカバーや毛布、キルティングなどさらに十数種類のカテゴリがある。この中に"pillow(枕)"というカテゴリがあり、ここを覗くとこれがまたすごい。
枕と名の付く物だけで何と21種類の商品があり、それぞれにサイズ(スタンダード、クイーン、キング、ヨーロピアンスクェア)があり、ものによってはその中にさらに、詰め物の堅さに分かれていたりする。
平凡なポリエステル綿の物から、最近日本でも流行している高機能枕や抱き枕("BodyPillow")まで様々だ。特に驚いたのはうつ伏せ寝用の枕まであることだ。洋物の映画などでは欧米人はよく枕に顔を埋めて寝ており、そこへ電話がかかってきてムニャムニャ言いながら電話をとるシーンがある。実際の生活でもうつ伏せ寝が多いのかどうかわからないが、うつ伏せ寝用の枕まであるところをみると、それなりのニーズがあるのだろう。
ちなみに仰向けに寝る人は"back sleeper"で、うつ伏せに寝る人は"stomach sleeper"というそうである。"stomach sleeper"用には詰め物はより柔らかくて低めに作った枕があり、"back sleeper"用にはそれよりは詰め物を固めにつめた物があるのだ。確かにうつぶせに寝るのに高めで固めだとこれは寝にくくて仕方ない。
欧米での枕の素材の主流は「羽毛」である。日本ではあまり問題にならないが「羽毛アレルギー」というものが少なくないらしく、そういう人向けに「ポリエステル綿」の枕もちゃんとCyberShopには用意してある。ちなみに、日本でも一流ホテルでは、ふつうは羽毛枕がベッドにセッティングされているが、ルームサービスに要求するとちゃんとポリエステル綿の枕ももってきてくれるし、日本ならではのそば殻枕も用意されているところもある。
枕マニアを自称する私でも、このCyberShopで初めてみたのは、なんとポケットコイルスプリングの枕である。高級ベッドのスプリングマットレスに使用されているポケットコイルスプリング(螺旋スプリングを一つ一つ布でくるんでしまい、互いに干渉しないようにしてあるもの)を枕の中心におき、その周囲を厚めにポリエステル綿か羽毛でくるんだものだ。さすがの私もこれをみて吹き出しそうになってしまった。いくら枕集めが好きでもこの枕を使ってみる気にはならない。ちょっと弾みすぎで堅そうで眠りにくいのではないだろうか。ちなみに、羽毛でくるんだタイプのスタンダードサイズが$29.99U.S.だからかなり安い。
ちなみに高いのは詰め物にダウンをつかったものである。羽毛枕の詰め物は日本ではスモールフェザーと呼ばれる羽毛としては固めの小羽根が一般的で、ダウンと呼ばれる綿毛は掛布団などにしか使われない。このダウンを枕につめた大変にソフトでゴージャスなものがダウンをつかった枕であり、これはスタンダードサイズの"back sleeper"用が$99.99U.S.、キングサイズが$139.99U.S.である。同じ品質のものを日本で買うとすれば、その倍の値段はするに違いない。
それにしても、このこだわり方は枕に興味のない一般の日本人からすれば、異常でさえあるかもしれない。だがこういったものがインターネットのメジャーなサイトの通信販売で出ているところをみると、それなりにニーズがあるのだろう。枕マニアにしてみれば実に羨むべき環境だ。
さて、このCyberShopであるが、枕コーナーを見ていて気に入ったものを見つけた。先ほども書いた羽毛枕であるが、柔らかなダウンだけを使用したものだ。これは国内ではまず入手できない代物だ。これは枕ファンとしては発注せねば罰があたるし、生涯悔いを残すに違いない。そう思って"Shopping basket"にこの枕を一つ放り込んだ。――このサイトはショッピングセンターの買い物のように自分で商品を仮想の買い物かごに入れ、最後に精算する仕組みだ。
そして精算すると今まで買い物かごに放り込んだ商品の明細と合計金額が表示される。だが荷造り送料("shipping handling")がどこにもない。よくみるとアメリカ国内の陸送費は含まれているとかいてある。アメリカ国内ということは海外はどうなるのだろう? そう思って更にいろいろ見てみると、航空便と海外オーダーは「現時点では」受け付けていない、と書いてある。なんたることか、折角その気になって発注しようとしたのに……。
だがこんなことでめげるようでは枕マニアとは言えない。国内サイトにめぼしいものが無いのは既に調査済みだから、別の検索サイトでキーワードを "shopping" と "pillow" と "bedding"の三つのAND条件で絞ってみた。するとでるはでるは、ごっそり出てくるではないか。よくみると何カ所にも同じサイトが別々のドキュメントで引っかかっている。ということは、このサイトはそれだけ「当たり」の可能性が強いのだ。
その会社はやはりアメリカの会社でPacificCoast社という、アメリカの羽毛寝具専門メーカーである。(http://www.pacificcoast.com/) なかを見ると羽毛掛布団、羽根マットレス、羽毛枕などがあり、それぞれがやはり数種類ずつ掲載されている。掛布団とマットレスには今の所用はない(でも興味はとてもあるのだが……)ので、先ほどと同じように枕のページを除く。するとFAQあり、枕が古くなったかどうかのテスト方法あり、羽毛の解説あり、とにかく説明が山のようにある。
その中で見つけたのは、最高級(といっても米国内価格の羽毛枕だから、たかが知れている)のグースダウンの枕だ。十年間の保証付きだとある。この会社の商品は先のCybershopでも扱っていたから、それなりに多少は名の知れたメーカーであろう。社の歴史を見ても昨日今日の会社ではない。それにここは海外からも注文を受けてくれる。そんなわけで、一両日迷ったが枕マニアの道をさらに極めるべく発注した。すると(時差の関係で)翌日にメールがきて、船便と航空便の選択を求めてきた。ここは、費用はかかるが一週間程度で届くはずの航空便にする……決めたものは一刻も早く入手するのがマニアの道である。
そういったわけで、今は新しいダウンの枕の到着を今か今かと待ち受けている。だが、それにしても気になるのは"CyberShop"の方だ。枕でなくても面白いものが山とありそうではないか。それが海外から買えないとはけしからん。ここはぜひwebmasterにメールして、早く海外でも買えるようにしてくれと懇願してみよう。
この海外寝具熱、いや、寝具にかぎらなくてよいが、とにかく面白いことが沢山ある。インターネットにアクセスできる環境がある人は一度試してみるとよい。国内の検索サイトでも「ショッピング」と「化粧品」でひくと結構ひっかかるので、奥様にみせると喜ばれること請け合いだ。
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