筆者は寝具に関しては絶対的な羽毛信奉者であり、これまでのいくつかの拙作エッセイ(*1)では、結果的には羽毛製品を強く前面に出してきた。良質な羽毛(ダウン)は、非常に柔らかであり空気をたっぷり含んで暖かくふわふわしている。掛布団であれば良質なものをきちんとつかえば、十年はおろか、二十年でも三十年でも使えるものだ。
しかし、こと日本の羽毛布団にかけては、品質が大したことはない割には価格が高すぎる。世界的に見ても希少品種である「アイダーダック」ならば話はわかる。「アイダーダック」とは北極圏に生息する海洋性水鳥で、雌が卵をかえすために自分の胸から抜き取った柔らかな胸毛を、鳥たちが巣立ったあとに、巣を壊さないようにしてピンセットなどで少しずつ採取したものだという。一般のダックでは一羽当たり60gほどのダウンが採取できるが、アイダーダウンの場合はせいぜい20g程度ということらしく、そもそも鳥自身の希少性もあって、非常に高価な羽毛素材になっている。価格的には、シングルでも100万円以上は珍しくなく、ダブルにいたっては200万円以上するものだってあり、それなりの車が買えてしまう価格だ。
しかし、どんなに高級な羽毛布団であっても、どんなに優れたダウンプルーフの生地をつかっていても、やはりダウンを使う限りは微細なダウンのカスや埃が飛び出してくるのは避けられない。
この微細なカスは埃が、羽毛アレルギーの人にとっては強烈なアレルゲンとなる。また、羽毛の最大の欠点はぬれてしまうと、その嵩だか性が失われてしまい、たちまちにして保温力を失うことだ。布団の場合は、寝小便でもしない限りぬれることは無いはずだが、アウトドア衣料などにはこれは決定的な欠陥となりうる。また、上質なものは価格が高くなるのが問題だ。
そういう欠点を補う目的で、つまり、より安く、水濡れにも強く、丈夫でアレルギーを引き起こさず、なおかつ良質なダウンの快適さを持ったものが開発された。これは米国陸軍の依頼により「Albany International」という会社により開発されたもので、Primaloft(R)という商標をつけられた。
原料的にはポリエステルなのだが、そこいらのスーパーに売っている安物のポリエステルの枕や布団とは全く別物であるといってよい。ポリエステル綿の枕を使った人ならわかると思うが、綿の量が少ないと頭を支えるには不十分だし、多すぎると弾力がありすぎて頭にフィットしない。また、当初の弾力のわりにはすぐにへしゃげてしまい、パタパタしても日に干してももう二度と元にはもどらない。
しかし、この「Primaloft」は繊維の構造が羽毛(ダウン)に似せて作られているということで、袋(枕や掛布団)の中で泳ぎ回ることができ、なおかつ長期間にわたって弾力性も失わない。天然羽毛ではないので、水にも強く洗濯機でジャバジャバ洗うことも出来る。さらに決定的なメリットは、このように天然羽毛の特質を出来るだけ求めながら、価格はダウンよりずっと安く、羽毛アレルギーの原因となる埃やゴミ、時に極少数混ざりうるスモールフェザーのチクチクとは無縁なことだ。
欧米ではダウンは昔から使われているだけに、こうしたアレルギー対策も進んでいる。ホテルでも最近はダウンよりこうした人工羽毛のものを使っているところが増えてきているらしい。実際、私が何度かのハワイ旅行で泊まっているホテルでも、中身はポリエステルだった(Primaloft(R)かどうかはわからない)。
日本でも、アレルギー体質のため羽毛寝具を使いたくても使えない人は必ずいるはずだ。米国の場合だとPrimaloft(R)は、寝具においては枕、掛布団、フェザーベッド(マットレストッパー、敷布団みたいなものだ)などに使われている。しかし、ダウンピローが国産では一切作られていないのと同様、このPrimaloft(R)を使った布団もいまだに見たことがない。Primaloft(R)は、他にアウトドア保温衣料やスリーピングバッグなどにも多く使われているが、これまた日本では米国からの輸入品ばかりのような気がする。
これは意図的にそうなっているからなのか、米国陸軍の依頼により開発されたものというので制約があるのかそのあたりはわからないが、とにかくPrimaloft(R)を使った枕や掛布団には残念ながら、これまた海外通販でしかお目にかかれないようだ。
私の場合、すでに掛布団は良いものを使っているので必要ないが、枕くらいなら試してみることができる。そこで「Lands' End」から他の衣類といっしょにキングサイズのものを購入してみた。購入したのはPrimaloft(R)使用のキングサイズの「Medium Primaloft Pillow」というもので、価格は40USDである。
まだ、使い始めて日がたっていないので、経年変化のことはわからないが、使ってみた感じでは「まさに良質のダウンピロー」にひけをとらないものだ。少なくとも座布団にしか使わないような、粗悪なスモールフェザーやフェザーをびっしりつめて、何千円とか一万円とか馬鹿高い値段をつけて平気で売られている、日本の「羽根枕」とは雲泥の差、天国と地獄ほどの差があるといってよい。
気になるのは経年変化で、一般のポリエステル綿のように一ヶ月程度でへしゃげてしまうか、良質なダウンのようにかなり長く持つか、これはしばらくたたないとわからない。しかし、良質なダウン(羽毛)以外の素材では、現状比較的簡単に入手できる範囲ではおそらく間違いなくダウンに替わり得るものだといえる。
特に、先ほど書いたように、アレルギー体質でダウンを使いたくても使えなかった方には朗報であること間違いない。
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