羽毛掛布団の個人輸入 

(No.1450〜1452 1999/06/23〜25掲載したものを加筆修正しています)


 一月ちょっと前のこの雑文で「羽毛寝具の買い方」と話題で海外から羽毛掛布団や羽毛枕を個人輸入で買うという話をした (No.1425〜1427 1999/05/29〜31掲載)。あの時はキングサイズのダウンピローを米国の「A-1 VALUE」という会社(http://www.a-1value.com/)から購入したのである。

 Webサイトをみて商品を決め、送料見積り依頼をWebページから出したら、翌々日くらいには返信が届いた。そしてFAXにて発注書を送付してから――暗号化されていない普通のE-Mailでクレジット番号や有効期限を送付するほど馬鹿ではない――五日後には手元にカナディアン・ホワイトグース・ダウンだけを使用した柔らかで大きな枕が手元に届いた。海外通販だから時間がかかるとは限らないという典型であろう。日本の国内通販でも下手すれば二週間以上平気で待たせるところもあるのだから立派である。付けくわえれば米国のLand's Endhttp://www.landsend.com/)も同じくらいかそれ以上に早い。時差を考えてさらに間に週末を挟まないようにすれば東京なら数日以内に届くであろう。ちょっとは国内の通販業者も見習って欲しいものだ。

 さて、さきの「羽毛寝具の買い方」の中で「Old Europe Duvet」というカナダの会社(http://web.onramp.ca/oldeurope/)についてもふれた。詳しいことはそれを読んでいただきたいが、日本への販売に強い関心を寄せているここの社長と何度かのメールのやりとりをするうちに、ここなら羽毛布団を注文しても良いと思った。文中にも書いているが、燃料費が非常に高い日本の一般家屋と違って北米の家屋は暖房がしっかりしているから、真冬の寒い時期でも薄い掛布団(comforter)か毛布程度の人が多いらしい。だから米国の寝具(Bedding)通信販売Webサイトを見ていても比較的薄手の布団(comforter)が多く、ダウンを多く詰めた厚手で保温力の高い掛布団(duvet)は少ない。"duvet"とついていてもダウンの主さを見ると30ozに満たなかったりする。夜寝る前に暖房を止めてしまい明け方にかかなり冷え込む関東以南の日本の家屋の場合、これでは少々足りない。そこでさきほどの「Old Europe Duvet」の出番である。ここのは客の指定でダウンの増量ができるのである。例えば、一番厚手の掛布団である "The Austrian Duvet" は標準は32ozであるが、8oz増量したり16oz増量したり、あるいはもっと増量したりすることができる。ダウンは多ければ良いというわけではないのだが、少なかったら日本の家屋では寒くて仕方ない。

 羽毛布団の特徴は何と言ってもその嵩高さというかふわふわした(fluffy)感じにある。これはダウンがたっぷりと空気を含むからであり、空気は非常に良質の断熱材であるから、このふわふわ感は多いほどよい。

 羽毛掛布団の場合は、多かれ少なかれ羽毛を包んでいる袋の上下が何らかの形で繋がっている。中には古典的ヨーロッパスタイルのように周囲以外はどこも縫いあわせていない大きな袋になっているものもあるが、これはあまりみかけないであろう。多くの場合縫い方には縦横クロスになったもの、縦(あるいは横)方向にだけ縫い目があるもの、昔の日本の布団のようにとびとびに上下を縫い合わせてあるもの(Karo-Step) などだ。この縫い目の目的は大きな布袋を仕切ることで、羽毛の極端な片寄りを防ぐことにある。また縫い目の種類として上下の布を直接縫い合わせた物、仕切りの布を壁のように使い上下の布が直接くっつかないようにしたもの(baffled)がある。

 ちょっと考えればわかることだが、ダウンのふかふか感を保つためには上下を直接縫い合わせたものは明らかに落第である。仕切りを入れるタイプ(baffled)より製造の手間がかからないからローコストで済むのが特徴だが、上下を縫い合わせるものだから縫い目付近は羽毛を含まないただの二枚の布になってしまい、そこには暖かなダウンと空気の断熱層がないために熱が逃げてしまう。これはいくら安くても買ってはならないタイプだ。このタイプは布団の上端を両手で持ち上げて明かりにかざしてみれば、そこの縫い目の部分に羽毛がほとんどないのがすぐにわかる。羽毛布団の選び方としてこのように明かりにかざしてみるのも中身を知る重要なポイントである。

 上下の仕切りがあるタイプ (baffled) のほうだが、これも仕切りの高さがあまり低すぎると、さきの上下縫い付けタイプに近くなってしまい、せっかくの仕切り方式もメリットがでない。この仕切りを低くすると、当然仕切りに囲まれた中央部にダウンが集まってきて、実際以上にそこだけ盛り上がって見え、いかにもふっくらとした感じに思えてしまう。つまり粗悪な(フィルパワーの低い)羽毛でも、少ない羽毛でもふっくらと温かそうに豪華そうに見せることができるのだが、当然の事ながらあまりよろしくないのは確かだ。つまりこの仕切りはある程度たっぷりとした高さがないと、中のダウンが泳ぎ回って空気を含むことができないのである。ダウンはびっしり抑えつけて体に寄せるからあたたかいのではなく、ふわふわとしたまま空気をたっぷり含んでつつんでくれるから暖かいのである。

 次にこの仕切りの形や大きさだが、細かければよいというものではない。日本で売っている典型的な羽毛掛布団は、仕切りの高さが低く仕切り数が比較的多いものである。これのセールストークとしては「羽毛の片寄りを防ぐ」というものが多い。片寄りを防ぐのは確かだが、仕切りの高さが低く仕切りで囲まれた面積を小さくしているために、さきほど書いたとおり粗悪なもしくは少ない羽毛でよりふっくらと見せることができるから、業者は好んでこの方式を使うのかもしれない。たまによさそうなもの(仕切りに十分な高さがあり良質のダウンをたっぷりつかったもの)をみかけるとえらく高い。さらにはその値段をもっともらしく思わせるために、凝ったプリントの記事やシルクなどを使ったものがあったりして余計に値段が高くなる。そして曰く「生地も最高級のものをつかっているから高い」。羽毛布団の生地で大切なのは織り目の細かさと縫い目の確かさである。生地の柄は問題ではない。そんなのは掛布団ケースでいろいろコーディネイトすればよい。下手な柄は薄い色の掛布団ケースを使ったときに、生地の柄がすけてきてかえって邪魔になるだけであるからそんなものに金をかけるのは無駄だ。とにかく掛布団の柄に金を払うのは私に言わせれば、とんでもなく馬鹿げたことである。

 羽毛布団の生地は目のつんだシンプルな無地に限り、仕切のあるタイプ (baffled) でその仕切の高さはダウンを押しつぶすような低い物ではなく、十分な高さがなくてはいけない。しかし、これまた残念ながら日本ではあまりみかけないし、みかけたとしても生地に余計な金をつかったりしているものがあったりする。とりわけデパートや有名寝具店の羽毛布団売り場にはそういう見掛け倒しのものが非常に多いような気がする。また名の通った寝具メーカー製というだけのものを買うべきでもない。

 国内では比較的良心的なものを作っているのは、東京だとカメラ系ディスカウントショップであるビックカメラの中にある「うもう工房」だと思う。ここでは自工房で羽毛布団を作っており、生地は当然無地である。安い物はそれなりだが、ある程度の値段のものをみると仕切りの高さもそこそこありダウンのふっくら感が失われていない。

 今回私が買ったのはここではなく、表題のとおり個人輸入である。これは通信販売であるので自分で手触りなどを確かめられないからリスクがともなう。リスクが嫌な人は「うもう工房」をおすすめする。私は最初に触れた「Old Europe Duvet」の社長とメールでやりとりするうちに私のほうもここのファンになってしまい、つい買わずにはおれなかったのである。頼んだのは "The Austrian Duvet"でありダウンを16oz増量し48ozにした。仕切(baffle)の高さはなんと驚いたことに12インチもあり、羽毛はたっぷり空気を含んで自由に泳ぎまわれる。生地はしっかりとした綿の白無地であるが、しっかりしすぎていてがさがさ感が出てしまっているのが残念といえば残念である。羽毛布団の特徴を生かすにはドレープ性が重要なのだが、せっかくの良いダウンを生地が殺しているところがある。これは早速社長宛てにメールをしておこう。

 16ozダウンを増量した「The Austrian Duvet」には、その生地を除いて満足している。ただし生地というのも使っているうちにしなやかになってくるものであるから、この布団の良さは何ヶ月か使って生地がなじんだころに本領を発揮するかもしれない。まだ様子見ではあるがおすすめの一つになりそうだ。これはまた何ヶ月かしてから書いてみたいと思う。 

[追記]

 その後三日ほど使っているが、最初に梱包を解いたときのがさがさ感はかなり減った。baffleの高さが12インチと十分にあるので、ダウンを抑えつけず体に雲をふんわりと掛けたような感じだ。これは今までに使った羽毛布団にはないものだ。それが故にしっかりした生地のわりには、体に吸い付くようなフィット感が生まれている。やはり羽毛布団は高さの低い仕切で、一見ふんわりと見せるような縫い方をされるよりも、十分な高さの仕切と上質のダウンだけをつかった雲のようなふんわり感が重要である。このふんわり感は初体験の快適さである。


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