よく言われる話ですが、組織には必ずリーダーと反対の意見をはっきりと言えるメンバーが必要です。組織をまとめていく立場としては自分を支持してくれる人間で固めるのが、心理的に心地よいですがそれでは組織は必ず問題をお越し衰退します。同族企業やトップ独裁企業で周囲がものを言えず崩壊していった企業も多くあります。
オーナー社長の会社
ちょっと話が大きくなりますが、民間組織としては大きな組織といえる会社組織について見てみましょう。
株式非公開で100%株式を握っている独裁的経営トップ(=オーナー社長)の企業で社会的にも評価が高く良い経営状態で長続きした例は少ないのではないでしょうか?
株式会社ジャニーズ事務所
最近ニュースを賑わせている「株式会社ジャニーズ事務所」は、外部専門家による再発防止特別チームの報告書(公開版)によれば、メリー氏死去後の株主構成は100%藤島ジュリー景子氏が所有しているとなっています。
100%株を所有し自分自身が「株式会社ジャニーズ事務所」の代表取締役社長として、年商1000億円とも言われている芸能事務所をオーナー社長として仕切っているわけです。
一般に株式非公開でオーナー社長だと、社長の人格次第でありますがだれも文句を言えないでしょう。
代表取締役を代表権を剥奪するだけではなく取締役そのものを解任するには株主総会での決議が必要ですが、そもそも代表取締役が100%株主なのでそれはありえません。
では代表権を剥奪して取締役(いわゆるヒラの取締役)にする場合は、取締役会の決議で解職が可能です。通常の取締役会の招集権があるのは代表取締役と定められていますが、代表取締役解任が議題である場合には、その対象ではないヒラ取締役が召集しなければなりません。
この場合代表取締役以外の取締役の過半数が出席し、さらにその過半数の賛成を持って代表取締役を解任しヒラ取締役に落とすことが可能です。
しかし牙をむく取締役がいれば100%株式を持つオーナー社長が100%株主としてその取締役の首を切ることも可能です。
各社の報道によれば藤島ジュリー景子氏は「株式会社ジャニーズ事務所」代表取締役の座を退き、ヒラ取締役として残留するとのことです。
後任には東山紀之氏が「株式会社ジャニーズ事務所」代表取締役の座につくそうですが、株式公開の法人ではなく100%藤島ジュリー景子氏が所有する会社の雇われ社長であり、最終的な意志決定権をもつことはかなり難しいと思わざるを得ません。
株式非公開でオーナーが1名で100%株式所有をしている会社では、誰が社長になろうが所詮雇われ社長・サラリーマン社長であり、上司とも言えるオーナーの気に入らなければいつでも社長の首をすげかえられるということです。
雇われ社長になって良いことは、限られた責任と権限ではありますが、経営能力を磨き社長として最も重要な問題解決能力を高めることができるのがメリットです。東山紀之氏もこの先ずっと「株式会社ジャニーズ事務所」の代表取締役社長であるとは思えず、いずれ自分の会社を立ち上げるでしょう。そのときに今の経験が役立つはずです。
株式会社ビッグモーター
同じような例がメディアからネガティブ話題が消えることのない「株式会社ビッグモーター」です。
「株式会社ビッグモーター」の株は100%を持ち株会社の「株式会社ビッグアセット」が所有しており、その株式は100%を兼重親子(兼重宏之氏[父]、兼重宏一氏[子])となっています。
間に持ち株会社が入っていますが、構図は「株式会社ジャニーズ事務所」と全く同じです。
「株式会社ビッグモーター」は上場していませんし100%株式を所有していますので、買収されることもないし、有価証券報告書の提出義務もない、ぶっちゃけやりたい放題経営ができるぬるま湯環境です。
現在の社長である和泉伸二氏は、「株式会社ジャニーズ事務所」の東山紀之氏と同様雇われ社長であり、重要案件での意思決定権限は事実上持っていないと思われます。なので先日のような1店舗500万円の利益上乗せみたいなことになるのかもしれません。
オーナー社長の会社の弱点
このように100%の株式を個人あるいは親子などで独占所有して株式非公開である会社は、外部の監視の目が届かないためともすると不正の温床になってしまいがちです。
創業期は強い意思を持って会社を育てる必要がありますので、株式非公開で創業者が全ての株を持ち自分の意思だけで会社を育てて行けるのは非常に大きな強みです。
しかし創業期をすぎてさらなる成長期にはいると、成長の勢いで経営者としてのCSR(企業の社会的責任)やモラルに対して目が曇りがちになります。会社価値が高くなっていれば株式公開に踏み切ることも選択肢に入れて検討すべきなのではなかろうかと思います。
もちろん外部の圧力がなくてもいろいろな意味で社会的に責任のある経営をしておられるオーナー社長のほうが多いわけですが、企業規模が大きくなってしまうと目も届きにくくなるし、さりとて絶対的な権限を持つ自分に堂々と意見する従業員や役員も少なくなるのではないかとも思います。
会社という規模の組織では、オーナー社長に逆らえる人はそう多くないですし、下手すると弱みを握って恐喝のようになりかねません。
小さな組織
組織もメンバーも経営からあてがわれる
企業でいう部や課といった小さな組織では、会社とはまた違っていて部長や課長は選べないし、部長や課長自身も通常は担当する部や課をえらべないですし、多くの場合メンバーを好きに選ぶこともできません。
採用も専門の人事部門があり、人手がないので一人回してくれと人事に要望をしつこく出していると、箸にも棒にもかからないような社員がまわされてきたりします。これなら増員しないほうがよほどマシということも、筆者の管理職経験でも多くはないですがありました。
こうした小さな組織でも、自分が部長である場合は部下の課長達、自分が課長である場合はメンバーの課員たちが自分のいうことをよく聞くYESマンのほうが、噛み付いてくる部下よりは心理的に居心地が良いのは間違いありません。
しかし部長・課長も人間ですから判断を誤ることは多々あります。
そうしたときに臆せず鋭く誤りを指摘してくれる部下、自分といつもではなくても反対意見を持つ部下というのは非常に重要な存在です。
否定意見を持つ部下は味方にせよ
これは説得して自分の意見にYESを言わせろということではありません。
否定意見を持つ部下を何がなんでも説得してYESと言わせるのは得策ではありません。
感情的になると全面衝突しますので、スタートレックのバルカン星人のように感情を排して、なぜ否定的な意見を持つのかを明らかにすべきです。
部下の否定意見に耳を傾けるのは上司として重要な資質であり、これができない上司は上司の椅子に座るべきではありません。
反対を述べる部下の意見の根拠の中には、上司である自分が気づいていなかった盲点というのも必ず存在します。
それに気づくのが優秀な上司であるわけですが、気づいただけではなく「課長である自分も気づかなかった点である、今後もぜひ自分の参謀として支えてほしい」といったふうに振り向けましょう。
これは上司として人間ができていないとかなり難しいと思います。
一方で、部下がとにかく文句だけ言いたい場合も当然あるはずです。
その場合は「傾聴」しましょう。言い換えればカウンセラー的な振る舞いです。優れたカウンセラーは決して自分の意思を相手に押し付けたりしません。相談者に話をさせて、気づきのヒントを与えるだけです。
いきなりそこまではできなくても、最後まで聞いてあげるだけでガス抜きにはなります。