新型コロナ感染症拡大とともに、小池東京都知事はかなり苛立った様子で「リモートワークの推進」を声高にメディアの前で叫んでおらえます。通勤時間帯の混雜はコロナ以前に比べると相対的に乗客数は減っていますが、感染拡大したからといって乗客が減る気配はなさそうです。なぜテレワーク・リモートワーク・在宅勤務が進まないのでしょうか?
テレワーク・リモートワーク・在宅勤務について
まずは「テレワーク・リモートワーク・在宅勤務」の3つの言葉の違いを把握しておきましょう。
・テレワークとは「ICT を活用した場所にとらわれない柔軟な働き方」の総称である。(総務省)
・リモートワークとは普段の仕事場から離れて仕事をすること全般を表す。勤め人とは限らない。
・在宅勤務とは所属するオフィスに出勤せず、自宅を就業場所とする働き方である。
以降の説明では、コロナ禍における対応なので定義としては「在宅勤務」が適切ですので、「在宅勤務」が進まない理由を考えてみます。
日本全国だと広すぎますので、小池都知事がかなり苛立って叫んでおられるように東京都について調べてみました。
東京都の就業者の実態
東京都の就業者の実態を調べてみました。
〔就業者の主な産業別内訳〕 | 就業状態別 15歳以上人口 (単位:千人) | 割合 (%) |
卸売業,小売業 | 1,296 | 16.8% |
情報通信業 | 863 | 11.2% |
医療,福祉 | 821 | 10.6% |
製造業 | 752 | 9.7% |
サービス業 | 697 | 9.0% |
学術研究,専門・技術サービス業 | 568 | 7.4% |
宿泊業,飲食サービス業 | 513 | 6.6% |
建設業 | 460 | 6.0% |
教育,学習支援業 | 452 | 5.9% |
運輸業,郵便業 | 367 | 4.8% |
金融業,保険業 | 337 | 4.4% |
不動産業,物品賃貸業 | 312 | 4.0% |
生活関連サービス業,娯楽業 | 284 | 3.7% |
データ出典:東京都「東京の労働力(労働力調査結果) 令和2年10月~12日」より
https://www.toukei.metro.tokyo.lg.jp/roudou/rd-index.htm
産業別内訳(業種)だけを元に2つに分類してみました。
赤文字:在宅勤務がほぼ不可能と考えられる業種
黒文字:在宅勤務が不可能な業務と、在宅勤務でもできそうな業務が混在していると考えれる業種
この2つの比率は以下の通り。
在宅勤務 | 就業人口 (単位:千人) | 比率 |
ほぼ不可能と推測 | 4,750 | 61.5% |
一部可能と推測 | 2,972 | 38.5% |
あくまで計算上ですが、最大限でも東京都の15歳以上就業人口の38.5%しか在宅勤務は可能ではないことになります。
実際にはこの業種は全部在宅可能なんてありえないので、仮にこれらの半分の人が在宅勤務可能だとすると、約19%の人しか在宅勤務できないわけです。
さすがにそれはないと思うので、前述の19%の7割というが妥当でしょうか。でも、これを実現したところで通勤客が7割減るわけではありません。なぜならそれは東京都全就業人口の13.8%にしか過ぎないからです。
つまり最大限でも通勤客は2割しか減らない。
電車通勤者を減らす視点であれば、上記就業人口のうち「公共交通機関利用で通勤している人の割合」がわからないといけませんが、どうもそういうデータは見当たりません。
推測としては、前述の「一部可能と推測」な業種において在宅勤務が可能な業務に従事する人の7割を在宅勤務にするということが落とし所なのでしょう。
在宅勤務が進まない4つの理由
世間ではコミュニケーションが取りにくいとかいろいろありますが、主としてそうしたメンタル的な理由よりもっと大きな問題があるはずです。
経験的にはコミュニケーションはICTでかなり解決・対応可能です(後述します)が、もっと大きな壁があります。
理由1:業種上の理由
いわずもがなですが、上記の産業別内訳で赤文字の業種の皆さんのほとんどは在宅勤務は不可能な方です。全体の6割強が通勤の必要有無に関わらず在宅勤務が不可能になります。
そういった中でも事務職の一部の仕事などは在宅勤務も不可能ではないかもしれません。
理由2:ICT上の理由
在宅勤務するためには、基本的にはPCは会社所有でセキュリティが担保されたもので会社のネットワークに入り込む必要があります。
しかしシステム管理の立場(筆者もかつてその手の仕事もしていました)からいうと、それは防波堤の一部を削るのと同じです。
セキュリティの基本として「そのネットワークのセキュリティレベルは一番低いところで決まる」というのがあります。
せっかく鉄壁のファイアウォールや各種防衛システムで守っていても、簡単なパスワード認証のみで会社のネットに入れれば、それはすなわち高価なファイアウォールなどの意味はかなり低くなってしまうということです。
できれば外部から社内ネットにガンガンアクセスする(笑)ことは避けたいというがIT担当の偽らざる本音。
理由3:労務管理上の理由
日本は法律上一般労働者は労働基準法により労働時間の上限が定められています。裏を返せば成果がでようがでまいがその時間は仕事をしなければなりません。あるいは仕事をしているフリをしなくてはいけません。
[与えられたその週の目標を最初の2日で達成したので、あとの3日間は遊んで暮らすなんてのは許されていません。
その労働時間管理が在宅だと会社のようなわけにはいかない。
始業・就業が不明確になりがちだし、会社だと上司や周囲の目もあるので私用外出は簡単ではない(申告などが必要)けれど、在宅だとふらりと近所のコンビニに行ってしまうということもあります。
理由4:労災対策の理由
日本は労災についてもケアが厚い国です。
例えば、会社で仕事中に必要があってPCを移動した際に、手が滑ってPCが足に落ちて怪我をしたという場合、通常は労災認定が得られると思います。すなわち労災扱いになります。
しかし自宅ではどうでしょうか?
自宅で仕事のために会社のPCをダイニングテーブルに置こうとして手が滑って足に落ちて怪我をした。これが素直に労災認定されるかどうかは極めて疑問なところです。
労働者側にすれば仕事のためのPCで怪我をしたのだから業務上災害であると主張するかもしれませんし、会社からしたら自宅の中の状況まで会社は責任をもてないということになります。どちらの言い分に利がありますが、どちらかといえば会社のほうが有利な気がしなくもない。
在宅勤務中に起きた業務関連災害の扱いが難しい。
対応策はあるのか?
上記各理由ごとに対策を考えてみましょう。
対策1:業種上の理由への対策
これはほぼ無理といっても良いでしょう。
技術が進化して、リモート診療も対面診療と同様に行えるようになるとか、物流はほぼ無人でできるといった未来の図になりますよね。
対策2:ICT上の理由への対策
一番対策が打ちやすい、金で解決できるのがこれです。
皆さんの会社では業務のデータはネットワーク上どこに置いていますか?
業務システムを担うサーバーはネットワーク上どこに接続されていますか?
おそらく大抵の方は「社内ネット」と答えるでしょう。
これらが「社内ネット」にある限り在宅勤務の推進は厳しいと思います。
対策はクラウドサービスの活用です。
実際に活用しうるサービスは多くあり、単なるデータストアだけではなく距離を超えたコミュニケーションツールも提供されています。
代表的な2つのクラウドサービスですが利用している大手企業は非常に多くあります。
これらを普段から社内でも使うことを基本にする(原則として社内サーバーには置かない)ことで、社外での仕事の際も社内ネットに入り込む必要はありません。
難点があるとすれば社内からクラウドサービスへのトラフィックが激増することですが、これは回線を太くするなどで対応可能です。
在宅勤務以外にもメリットがあります。
業務や経営データが社内サーバーにしかないと、地震や水害でサーバーがやられたときには経営継続に必要なデータが失われ、会社の存続自体が不可能になる可能性もあります。
しかし、クラウドを主たる保管場所にしておけば、社内のオンプレミスのサーバーに気を使う必要がなくなります。
Google Workspaceのサーバーは場所は非公開ですが世界各地に分散されているようですし、Microsoftの場合はサービスにもよりますが東京と大阪に分散しているそうです。
もちろんクラウドを使うための管理者は置かなくてはなりませんが、大規模なオンプレミスのサーバー管理に比べたら遥かに容易いものです。
対策3:労務管理上の理由への対策
残念ながらこれは企業の力だけでは解決できません。
労働慣習と労働関連法制度の問題があり、相当根深いです。
欧米で在宅勤務を含むテレワークが普及しやすいのはここの部分の違いによることにあります。
仕事内容にもよりますが、どこで仕事をしようが期待された、あるいはコミットした成果さえきっちりと上げれば別に文句を言われない。
昼間眠って夜中に仕事をしようが深夜業手当とか関係ない。
こういった風土や法制度がテレワークを簡単にします。しかし日本はそうではないので、まだまだ時間がかかるでしょう。
対策4:労災対策の理由への対策
労働上の災害に関しての使用者責任は各国あまり差がないそうでありますが、それ以外の補償といったところで差があるそうです。
それに加えて日本では、労働基準法第 8 章における各規定によって、使用者は、業務上の負傷・疾病・障害・死亡に対して、無過失責任としての災害補償責任(療養補償〔75条〕、休業補償〔76 条〕、障害補償〔77 条〕、遺族補償〔79 条〕、葬祭料〔80 条〕)を負っている。
出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構 「独立行政法人労働政策研究・研修機構」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049
これも労働者と使用者の責任範囲と補償概念について変更するというよりは、明確な線を引く(これは日本人には苦手ですよね)ことが必要になり、一朝一夕では解決しそうもありません。
コミュニケーション不足を解消する対策
冒頭に書いたことですが、これはすでに解決策がでています。
まずはこちらのTBS NEWSの動画を御覧ください。
ほとんどゲーム感覚ですが、そこにいるアバターはすべてリアルな従業員であり、声をかけるとリアル世界でそうであるようにバーチャルオフィスでも反応してくれます。
ミーティングだってVirbelaはMicrosoft Teamsより進化しています。
これがあればリアルオフィスの常設は不要じゃないの?
それにアバターを使って実際に出勤させることで労務管理の問題の出退勤問題もほぼ解決できます。私用外出にしてもアバターが動かなくなるし、声をかけても反応しなくなるわけで…(笑)
まとめ
日本で在宅勤務が進まない理由は主に4つある。「業種」そのものが在宅できないという理由、ICT上の理由、労務管理上の理由、労災対策の理由がある。
これらの理由で簡単に(金だけで)解決可能なのはICT上の理由であり、クラウドサービスを導入すれば日常の管理も相当楽になる。
コミュニケーション不足を懸念する声も多いが、最近はゲーム感覚でバーチャルオフィスと従業員のアバターを使うシステムも登場している。