新型コロナ感染症拡大にともない、入館時に37.5度以上の発熱の有る方は利用をお断り、なんてのは当たり前になっています。しかし旅館・ホテルは法律上簡単には拒否はできないというジレンマがあります。
旅館業法第五条
まずは旅館業法の関連条文を見てみましょう。
第五条 営業者は、左の各号の一に該当する場合を除いては、宿泊を拒んではならない。
一 宿泊しようとする者が伝染性の疾病にかかつていると明らかに認められるとき。
二 宿泊しようとする者がとばく、その他の違法行為又は風紀を乱す行為をする虞があると認められるとき。
三 宿泊施設に余裕がないときその他都道府県が条例で定める事由があるとき。
e-Govより引用
基本的に、旅館やホテルなどは、特定の場合を除き「宿泊を拒否できない」のですね。
上記の第三項の「その他都道府県が条例で定める事由」というのが気になります。
東京都の例を見ると、「東京都旅館業法施行条例」の第五条に記載があります。
(宿泊を拒むことができる事由)
第五条 法第五条第三号の規定による条例で定める事由は、次のとおりとする。
一 宿泊しようとする者が、泥酔者等で、他の宿泊者に著しく迷惑を及ぼすおそれがあると認められるとき。
二 宿泊者が他の宿泊者に著しく迷惑を及ぼす言動をしたとき。
東京都例規集より引用
沖縄県では「旅館業法施行条例」で次にように定められています。
第5条 法第5条第3号の条例で定める理由は、次に掲げるものとする。
(1) 宿泊しようとする者が、泥酔し、又は言動が著しく異常で他の宿泊者に迷惑をかけるおそれがあると認められるとき。
(2) 宿泊しようとする者が、身体又は衣服等が著しく不潔であるために、他の宿泊者に迷惑をかけるおそれがあると認められるとき。
沖縄県法規集より引用
東京都も沖縄県も旅館業法施行条例の該当条文は似たようなもので、単なる発熱だけで拒否できる根拠は全くありません。
一見すると、旅館業法第五条第一項の「伝染性の疾病」というのがひっかかりそうですが、「発熱している」だけでは「伝染病の疾病」とは認められません。
実際、37.5度ちょっと程度なら単なる風邪が圧倒的に多いと思います。
風邪をひいているからといって、フロントで追い返された人はいないと思います。高級旅館などでは気を使ってくれてお薬を用意しましょうか?とか聞いてくれたりするくらいです。
旅館業法第五条により、単なる「発熱している」という理由で旅館・ホテルは宿泊を拒否できない。
気の毒な施設側
いくらホームページなどで考えられる感染防止対策を行っていることをPRしていても、コロナ感染者かもしれない発熱者の宿泊を拒否できないと他の宿泊者を不安にしたり、万一クラスター発生になると風評被害で存続が危ぶまれる事態も予測できます。
リゾートの海の上のコテージのようなところなら、事実上の隔離をすることも可能かもしれませんが、国内の旅館やホテルはそんなことは不可能です。
旅館・ホテル側で出来る対策は、なんとか隔離部屋を用意しておいてそこに入ってもらうことだけだそうです。
実際問題、家を出たときには仕事で疲れ気味だったが熱はなかった。
しかし途中で具合が悪くなりホテルについたころには37.5度の微熱になっていた、なんてのは普通に有り得る話で、コロナ感染者である可能性より風邪である可能性のほうが圧倒的に高いわけです。
普通の風邪なのに宿泊拒否されたのではたまったものではありません。
まして、深夜近くに到着して拒否されてしまうと他に行く手段もないので、施設側としても熱がある程度では法律云々以前に旅館の経営として泊めないわけには行かないでしょう。
安直な法改正はできない
なぜこのように拒否条件が厳しいのかと言うと、
・安易な拒否は国籍・人種・障害等々での差別につながる。
・他に宿泊施設の無い山などでは泊まれないと命に関わる場合がある。
につながるからだと考えられます。
コロナのようにいっときの問題で安直な法改正はできないと推測されます。
施設はどうすればよい?
旅館業法ではどうにも宿泊拒否は不可能なのですが、もう一つの伝染病予防法の切り口から施設から管轄保健所に相談するしかないようです。
仮に保健所がPCR検査指示を出し、即検査がうけられすぐに結果がでるなら、それもありかもしれません。
陽性なら隔離になります。
陰性なら普通の発熱なので宿泊OKになりますが、PCR検査精度は70%ほどですので、のこり30%は本当は陽性なのに陰性と判定されてしまう偽陰性の可能性があります。
まあ、この偽陰性がいくらPCR検査を繰り返しても、感染者が出てしまう要因の一つでもあるわけです。
まとめ
単なる発熱だけでは旅館業法の既定により、施設側は宿泊拒否できない。
施設側は万一に備えて、発熱している宿泊客は隔離(っぽいことができる)部屋に泊めるなどをするしかない。
出発前に検温して微熱(37度)以上の熱があれば、キャンセル料はやむを得ないがいさぎよくキャンセルすべし。