日本政府と在日米軍の合意により3月29日から羽田発国際線が1日約50便増便となります。なぜ増便と在日米軍が関係してくるのでしょうか?そのあたりを歴史とともに簡単に紐解いてみましょう。そして飛行機利用者にとってどうかわるのかを連載で解説します。
米軍管制空域の話
岩国と横田
日本領土の上空は日本領空に決まっているじゃないか!米軍は関係ない!
いや、「日本領空である」のは確かにそのとおりなのですが、「米軍は関係ない」という部分は残念ながら間違っています。
日本の領空ではありますが、本州に限定しても米軍基地のある岩国、横田の周辺の広大な空域は米軍管制下にあり、米軍の許可を得ないと日本の航空機は飛行できないエリアとなっています。
具体的にはここに岩国空域の図があります。
北は島根、南は愛媛のほぼ全体を覆うような空域が米軍の管制下にあります。
横田空域については、同じくこちらに図があります。
今回話題にする羽田空港国際線増便と深く関係しているのが、二番目に引用している横田空域です。
これがなければ、羽田から北陸や西日本への空路が随分短縮されるのではないでしょうか。
話は第二次世界大戦後から始まった
日本における米軍の権利等については第二次大戦後に締結された日米安全保障条約および日米地位協定に基づくわけですが、これらは日本国の法律の上を行く超法規的なものだと言えます。
この日米地位協定の中に岩国や横田の米軍管制空域が明確に定義されているかと思えばさにあらず。
この中に「第6条 航空・通信の体系,航空・航行施設に関する協力」というのがあり、「第六条に関連する日米合同委員会合意」という書面が掲載されています。その中に以下のものがあります。
日本政府は、米国政府が地位協定に基づきその使用を認められている飛行場およびその周辺において引続き管制業務を行うことを認める。
これが本州では横田空域と岩国空域を米軍が管制権を持っている根拠となります。
ちなみに昭和50年5月の改定前はどうなっていたかというと….。
日本国は、日本領空において完全かつ排他的な主権をもちかつそれを行使する。但し、一時的な措置として、わが国の自主的な実施が可能となるまでの間、日米間の意見の一致をみた時に、日本側が航空交通管制に関する全責任を負うこととして、米軍が軍の施設で行う管制業務を利用して民間航空の安全を確保することとし、また、日本側の管制要員の訓練を米軍に委託する。
どうやら改定前はまだ日本が口を挟む余地があったように読めますが、昭和50年5月の改正で米軍側が管制権を放棄しない限り日本が口をはさむ余地は事実上閉ざされてしまいました。
日米合同委員会とは?
Wikipediaを見ると以下のように説明されています。
日米地位協定上、正式な協議機関として日米合同委員会が設立されている。主に在日米軍関係のことを協議する機関で、政治家は参加せず省庁から選ばれた日本の官僚と在日米軍のトップがメンバーとして月2回、協議を行う
なんと、官僚と在日米軍のトップだけが参加している!?
実際には外務省北米局長と在日米軍司令部副司令官だそうでありますな。
ここでの合意は国会の承認などはありません。
主権不在民なんです。
実態はこう思えば間違いないところでしょう。
日本国憲法の事実上の上位に日米安全保障条約と日米地位協定がある。
国会の上に日米合同委員会がある。
超法規的な存在なんです。
話がややこしくなってきますのでここはこれくらいにしておきましょう。
兎に角、経緯はどうあれ実態として横田空域は米軍の許可なく日本の民間航空機は通過できなかったのです。
東京2020に向けて
平成31年1月30日の野上浩太郎内閣官房副長官の記者会見で、横田空域を通る羽田空港のあらたな飛行ルートについて、同年1月29日に日米が合意に達したと発表しています。
この話題は1分20秒あたりから始まっています。
この新しい飛行ルートの結果として、羽田の増便が実現されたというわけです。
公式動画(アニメ)が公開されていますが、ルートや運用についてわかりやすく説明されています。
筆者が下手くそな図をかいてごにょごにょ説明するより上の動画を御覧ください。
羽田空港国際線は、横田空域を日本の民間航空機が日本側管制のままで通過できるように日米合意がなされたため、1日50便の増便が可能となった。
次回予告
次回は3月29日から増便となる羽田空港発着便に目を向けます。